2020 Fiscal Year Annual Research Report
成人期ADHDの先延ばし行動への介入による,抑うつ低減メカニズムの検討
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20J23103
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小口 真奈 早稲田大学, 人間科学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 注意欠如・多動症 / うつ / 不安 / 実行機能 / 報酬機能 / 時間割引 / 先延ばし |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,成人期ADHD患者における先延ばし行動が生じるメカニズムを明らかにし,抑うつ症状を低減させることを最終目標としている。令和2年度における当該特別研究員は,「成人期ADHD患者における先延ばしと心理的健康の因果関係」を検討する研究を実施した。調査会社に登録しているADHD診断を受けた1,000名と受けていない1,000名を対象とした。成人期ADHD患者が頻繁に経験しているとされる先延ばしと抑うつや不安症状,well-beingといった心理的健康指標との因果的関連性を,縦断調査によって明らかにすることを目的としている。さらにこの関連性が,ADHD診断の有無により変化するのかを検討した。現在,一時点目の調査募集を終了し,横断研究として分析中である。 また,「成人期ADHD患者における神経認知要因と先延ばし」を検討する横断研究を実施した。調査研究により,神経認知要因のうち,ADHD傾向によらず,実行機能系と先延ばしの関連性が示された。一方で,報酬系においては,ADHD傾向が強い場合に関連性がみられた。また,即時と遅延した報酬や罰に対する反応性と先延ばしの関連性を,実験研究によって検討した。その結果,即時小報酬を選択しやすいという報酬に対する過敏性と先延ばしの関連性が,ADHD傾向が高い場合により強くみられた。これらの知見は,従来考えられてきた成人期ADHD患者の介入内容を再検討する上で,重要な知見となる。 以上の2点の主な成果は,成人期ADHD患者における先延ばしがもたらす影響や,先延ばしが生起するメカニムずの解明という目標に向かって,当該特別研究員の研究が着実に進められていることを示していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度において,当該特別研究員は,神経認知要因と先延ばしの関連性を検討するための調査研究を実施した。さらに,調査研究で得られた結果に基いて,神経認知要因のうち報酬/損失に対する感受性に着目し,ADHD傾向により先延ばしとの関連性が異なるのかを実験研究によって明らかにした。とくに,実験研究は予備的な検討を終え,54名に対して既に実験を実施し,研究を終了している。この実験研究により,即時に小さな報酬を選択しやすい報酬への過敏性が,先延ばしと関連していることを明らかにした。さらに,ADHD傾向が高い者において,その関連性が顕著であることを示した。この研究の成果に対して, 当該研究者は,国内の学会である「健康心理学会」にて「アーリーキャリアヘルスサイコロジスト賞」を受賞している。上述の2つの主な成果は,ADHD傾向者における神経認知要因と先延ばしの関連性を明らかにするという目的に向かって,当該特別研究員の研究が,着実に進められていることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度実施する研究においては,成人期ADHD傾向者に対する先延ばし介入の効果を検討することを目的としている。前年度の調査・実験研究で明らかになった,実行機能系や報酬系といった神経認知要因が,先延ばし介入によって変化するか明らかではないため,介入前後における変化を検討する。 具体的には,日常生活上の先延ばし行動を特定し,シングルケースデザインの介入研究を予定している。ベースライン期における先延ばし行動が,介入によって減少した結果,抑うつ気分が改善することを検討する。また,それらの変化に対する神経認知要因(実行機能系・報酬系)の関連性についても検討していく予定である。まずは,研究参加の同意が得られた1名に対して予備的介入研究を実施する。予備的研究をふまえ,受入研究者との協力体制がすでに整っている,2件の診療所にてリクルートを開始する。精神病性障害やパーソナリティ障害,物質依存などの除外基準に該当しないADHD傾向者および患者,20名を対象に研究を実施する。
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Research Products
(2 results)