2020 Fiscal Year Annual Research Report
多様な光物性を自在に光パターニング可能な革新的相反光機能材料の創製
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20J23105
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
ラッセル 豪マーティン 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 高分子ゲル / 白金アセチリド錯体 / 光加工 / 光安定性 / 形状変化 / ゲル-ゾル転移 / ヤング率 / 刺激応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
光によって弾性や流動性を制御可能なゲル材料は、次世代の光加工性材料として注目されている。しかし、従来の光加工性材料は、光という単独の刺激に応じて変質・劣化するため、環境光下では利用できないという本質的なジレンマを有していた。実用的には、材料の光加工性は加工後の光安定性との両立が望まれているが、このようなトレードオフ関係を解消した材料は未報告であり、新しい材料の設計指針が求められている。このような背景のもと、本研究では、共存する刺激に応じて光安定性と光加工性を切り替えられる材料を創製することでトレードオフ問題の解消を目指した。具体的には、白金アセチリド錯体を架橋部分として有するPtゲルは、酸と光の共存時のみ光加工性を示す一方、光のみに対しては安定性を示すと期待される。そこで、Ptゲルの光加工性・光安定性について定性・定量的手法の両面から評価を行った。 酸と光の刺激を同時に作用させると、Ptゲルの種々の物性変化が起きることが判明した。膨潤度に着目すると、酸と光を同時に作用させた場合のみ、Ptゲルの膨潤度は2.5倍増大した。このとき、Ptゲルのヤング率は46 kPaから11 kPaに低下した。一方、酸のみ、光のみの各条件においてPtゲルは一定の膨潤度・ヤング率を保持した。Ptゲルの2刺激選択的な物性変化はゲルの外観からも判別でき、ディスク型から器型への膨潤に基づいた変形が観察された。さらに、刺激時間の延長によって、Ptゲルの光照射部分はゲル-ゾル転移を起こした。したがって、Ptゲルは単独刺激に対して高い安定性を保持する一方で、2刺激を組み合わせた場合のみ、光加工できることが明らかとなった。加えて、Ptゲルは一度酸と共存させても、酸が除去されることによって光安定性を再獲得できることが判明しており、光加工後であっても環境光下で変質を起こさない革新的な材料であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は白金アセチリド錯体が有する光安定性と光加工性のスイッチング性に基づいた材料の刺激応答性のみを想定していた。想定通り、作製したPtゲルは所望の刺激応答性を有することが各種測定から明らかとなった。一方で、白金アセチリド錯体は燐光発光性を有しており、酸と光の2刺激が作用された部分のみ、白金原子の消失が起き、蛍光発光を生じることが実験により判明した。一般的な光加工性材料の場合は光励起により変質が起きるため、発光性は利用できない。このため、光加工後でありながらも、燐光と蛍光の両発光性が見られるという特徴は、光安定性を有するPtゲル固有のものである。したがって、一般には並立困難な物性である光加工性と光安定性のみならず、発光性であっても単一の材料で並立できることを示すことができた。さらに、Ptゲルの発光性と光加工性を両立することにより、これまでにはない応用として材料への情報の暗号化技術を開発することができた。文字列型のフォトマスクを通して、Ptゲルに酸と光を作用させることで、Ptゲルに文字列を転写できる。その後、Ptゲルは酸の除去によって光安定性を再獲得できるため、光励起による発光が可能となる。このときの蛍光発光領域は、光加工によって転写させた文字列の形と一致しており、肉眼であっても観察することができた。一方、光励起せず環境光下においてPtゲルを観察した場合は、高い透明性のため文字列は認識できなかった。したがって、転写された情報の読み込みに光励起を必要とする暗号化技術を確立することができた。このように、光加工性材料を利用する上で光励起条件と環境光条件を必要とする応用は、従来型の光に弱い材料では不可能である一方、Ptゲルならではのものである。このような発見は、当初は想定していなかったため、計画以上に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
開発したPtゲルは光安定性と光加工性を並立する革新的材料であることが判明した。しかしながら、ゲルが有する光加工性は不可逆的であるという新たな問題点を見出した。実用的には、光加工は可逆的であることによって高次な機能を繰り返し再設定できることが望ましい。そこで、本研究では刺激に応じて光反応性をスイッチング可能な架橋剤をゲルへ導入することにより、光加工性のスイッチング性のみならず可逆性を有するゲル材料を開発する。具体的には、[1]ロタキサン型クマリン分子を合成し、環状分子による被覆・非被覆条件に応じた光[2+2]環化反応性の制御を目指す。 [1]ロタキサン型クマリン分子の合成は既に成功している。そこで、続いては[1]ロタキサン型クマリン分子の反応性を詳細に明らかにする。具体的には、被覆時においてはクマリン分子の光環化反応性が低いながらも、非被覆時においては光環化反応性が高くなるような反応条件を溶媒の極性等といった観点から探索する。その手法として、UV吸収スペクトル測定や1H-NMRスペクトル測定、サイズ排除クロマトグラフィー測定を用いることにより生成物を経時的に同定・定量する。アクリル骨格を有する[1]ロタキサン型クマリン分子を新たに合成し、ラジカル重合によりポリマー化することでゲル材料を作製する。ゲル材料中のクマリン分子の被覆・非被覆状態に応じて光加工性がスイッチングされることを、被覆時におけるゲルの不変性と非被覆時におけるゲルの硬化性から評価する。具体的には、膨潤度試験や引張試験と動的粘弾性試験を用いた弾性率試験によって、機械的特性の変化を詳細に明らかにする。このようにして、従来は困難とされてきた光加工性のスイッチング性のみならず、可逆性を有するゲル材料を開発する。
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Research Products
(1 results)