2021 Fiscal Year Annual Research Report
六方ペロブスカイト関連構造をもつ新型超イオン伝導体の探索と構造物性研究
Project/Area Number |
20J23124
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
安井 雄太 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | イオン伝導体 / 結晶構造 / 六方ペロブスカイト / 中性子回折 / 放射光X線回折 / 燃料電池 / その場観察 / 不規則性(ディスオーダー) |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化物イオン伝導体は燃料電池や酸素分離膜に応用される産業的にも重要な材料である。酸化物イオン伝導性六方ペロブスカイト関連酸化物は未踏の新領域である。その中で新材料の探索とイオン伝導メカニズムの理解を進めることは極めて重要である。本年度は実用材料並みの高い酸化物イオン伝導度が知られているBa3MNbO8.5(MはWもしくはMo)について、MがWの物質のイオン伝導経路が不明であったことと、Mo物質とW物質でイオン伝導度の温度依存性が違う理由を解明した。Ba3MNbO8.5を実際に合成し、熱重量分析により高温での酸素量を求めた。イオン伝導度が高い高温でのその場中性子回折と放射光X線回折実験を行った。リートベルト法による結晶構造解析と最大エントロピー法による核密度解析を行うことで、酸素の結晶中での分布を解析した。その結果、Ba3WNbO8.5は二次元的な酸化物イオン伝導経路を持つことを初めて実験的に示した。Ba3MoNbO8.5とBa3WNbO8.5はどちらも準格子間機構により酸化物イオンが拡散することがわかった。また、Ba3MoNbO8.5と違い、Ba3WNbO8.5では温度上昇とともに酸素の位置と占有状態の不規則性が上昇することでイオン伝導度が急激に増大することを明らかにした。これがMo物質とW物質のイオン伝導度の違いの理由である。位置と占有不規則性によるイオン伝導度の向上という新たなコンセプトを今後の材料設計に用いることができると考えられる。また、Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15という新物質を合成し、高いイオン伝導度と強還元雰囲気における安定性を両立する材料を発見することができた。また放射光X線回折データを用いることで、TaとMoが不規則に配置せず、イオン伝導する層にMoが偏っていることを発見した。この偏りが高い酸化物イオン伝導に関わっていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は本研究課題の目的であったイオン伝導メカニズム解明・イオン伝導度向上の理由の解明と、新たな酸化物イオン伝導体の発見を両方行うことができた。Ba3MNbO8.5(MはMoもしくはW)においては占有・位置不規則性によるイオン伝導度の向上という新たなコンセプトと、準格子間機構による酸化物イオン伝導メカニズムの可能性を示すことができた。この成果を一流誌J. Phys. Chem. Cに発表した。また、昨年2020年度に発見したBa7Nb3.9Mo1.1O20.05から派生し、NbをTaに置き換えることで新物質Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15が発見できた。この成果は一流誌Smallに発表した。Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15についてプレスリリースを行いニュースとしても取り上げられるなど、本研究は高い評価を受けている。従って、本研究は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き有望な候補物質を合成し、酸化物イオン伝導度やプロトン伝導度を測定、結晶構造を高温その場で調べることにより、新たな超イオン伝導体を探索していく。特に、ある遷移金属元素を含む六方ペロブスカイト関連酸化物は酸素の位置・占有不規則性が高くなる傾向にあり、高いイオン伝導度が期待されるため、新物質の合成も視野に入れて合成しイオン伝導度を測定する。また、2020年度に発見したBa7Nb3.9Mo1.1O20.05について、イオンが移動する際の各元素の役割がわかっていないため、放射光X線を用いた先端的な構造解析と理論計算を用いて、それぞれの元素がどのような役割を持って、Ba7Nb3.9Mo1.1O20.05内で高いイオン伝導度を発現しているか明らかにする。 理論計算により数百種類の六方ペロブスカイト関連酸化物をスクリーニングした結果、6族遷移金属元素を含む新たな酸化物イオン伝導体を発見しつつある。イオン伝導度を測定するだけでなく、高温その場での結晶構造を解析し、温度変化と結晶構造・イオン伝導度の関係を明らかにしメカニズムの理解につなげる。その高いイオン伝導度の要因を解明するため、第一原理分子動力学計算による原子の動きのシミュレーション、および先端的な構造解析の実験データを組み合わせることで伝導メカニズムを理解する。これにより、六方ペロブスカイト関連構造という酸化物イオン伝導体の新分野において、新材料を発見し、そのイオン伝導メカニズムを解明したい。
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Research Products
(8 results)