2020 Fiscal Year Annual Research Report
計算科学に基づく新規移流拡散制御・分離測定技術の開発によるソーレ係数の高精度測定
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20J23254
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
折笠 勇 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | Soret係数 / マイクロ流路 / 上部高温液体 / 対流抑制 / 位相解析・接続 / 干渉縞強度時系列 / 人工生成波形 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)数値計算ソフトCOMSOL Multiphysicsを用いて,厚さ方向に薄い疑似二次元間隙を有するガラスセルに液体ザロールを充填し,上側高温で加熱保持したときの試料溶液中の温度・流れ場を数値計算した.その結果,試料溶液は意図しない水平方向の温度差を駆動力として浮力対流を形成し,平均流速は流路幅の減少に伴い単調減少した.また,異なる試料溶液,寸法で同様の数値計算を行った結果,レイノルズ数が水平方向の温度差と内部寸法の無次元数であるグラスホフ数の累乗関数として与えられることを明らかにした.本成果を第32回日本マイクログラビティ応用学会学術講演会学生口頭発表にて発表し,最優秀賞を授与された. (2)溶液内部における温度変化を干渉計により観測し取得した干渉縞動画像の強度時系列から既存のルールベース型位相解析手法により位相変化量を取得した.一部の強度時系列とそれに対応する位相変化量を訓練データとして機械学習モデルを構築した.その結果,構築したモデルにより,未訓練領域の強度時系列に対する位相変化量を高精度に予測した.さらに,溶液中の温度変化を数値計算し干渉縞の強度時系列を人工的に作成した.観測された干渉縞の時空間的強度分布を模擬するように,人工時系列を加工し,機械学習モデルを訓練した.その結果,人工時系列を用いて訓練した機械学習モデルにより,位相変化量を従来法と同程度の精度でかつ約500倍の解析速度で取得できることが明らかとなった. (3)試料溶液中の温度・濃度変化に由来する屈折率変化を干渉計によりその場観測して得た干渉縞動画像対して,ある干渉縞強度値に着目しその位置情報を撮影フレーム毎に繰り返し記録することにより干渉縞の時間変動を追跡する位相解析手法(トラッキング法)を作成した.性能評価は未検討だが,外乱を排除した高精度なSoret係数測定に向けた指針が示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
数値解析や機械学習などの計算科学に基づき,高精度かつ簡易的なSoret係数取得を実現する試料容器の最適形状や解析アルゴリズムを解明するため,令和2年度第1回研究計画書で記載した令和2年度研究計画では,試料容器寸法とSoret係数測定の擾乱となる対流の抑制効果との関係を明らかにすること,高精度・高速度な解析手法の構築に向けた指針を示すことを目的としていた.具体的には,1)数値計算と粒子画像流速測定法(PIV)とによるマイクロ流路幅での液体試料の流れ場計測,2)擾乱の影響を無視した解析を実現するトラッキング法の作成,3)機械学習による解析の高速度化の事前検討を計画していた. これに対して,閉鎖空間における上部高温液体中のレイノルズ数(対流強度の尺度)がグラスホフ数(試料容器寸法と対流駆動力に関する無次元数)の累乗関数で与えられることを究明し,さらに,対流と比べて拡散現象が支配的となる条件を見出し,本成果で学生口頭発表最優秀賞を授与された(6-1).また,干渉計による試料溶液中温度変化の解析について,機械学習を用いることで既存のルールベース型解析手法に対して同等の精度かつ約500倍の解析速度を実現する結果を得た(6-2).さらに,試料溶液の温度・濃度変化による干渉縞の変動を追跡する新たな位相解析手法の作成に成功し,擾乱を無視した高精度解析に向けた指針を示した(6-3).このように,想定通りの成果が得られた.以上より,当初の計画以上に進展しているとした.
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Strategy for Future Research Activity |
ガラスセルの流路幅とSoret係数の測定精度との関係を明らかにし最適寸法設計を行うこと,およびSoret係数測定における機械学習モデルの汎用性ならびにトラッキング法の有用性を明らかにすることを目的とする.これまでの研究で,流路幅およびセル寸法と流速との関係を無次元数により定式化し,拡散支配(対流抑制)条件を推定できた.しかしながら,具体的にSoret係数の測定精度を評価するためには,異なる流路幅において上部高温液体中でSoret効果によって発現する濃度場を実測し,評価することが重要である.また,これまでの研究で,機械学習モデルの有用性を,ある観測条件について明らかとした.しかしながら,異なる溶液や温度などの測定条件下でSoret係数を測定するためには,機械学習モデルの汎用性を明らかにすることが重要である.さらに,干渉計周囲の空気揺らぎや振動が存在する通常の測定環境下でSoret係数を高精度測定するためには,トラッキング法の有用性を明らかにすることは重要である.以上により,今後の研究方策として以下3点を遂行する. 1.マイクロスケールの異なる流路幅をもつガラスセルに充填した上部高温液体中の濃度場変化を,数値計算ならびに干渉計を用いて実測し,最適寸法設計への指針を示す. 2.人工時系列を用いて事前訓練した機械学習モデルにより,測定条件の異なる干渉縞動画像を解析し,従来法による解析結果と比較することにより,機械学習モデルの解析精度および汎用性を評価する. 3.微小重力環境下で観測された対流の抑制された理想的な干渉縞動画像に対してトラッキング法を適用し,その有用性を評価する.
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