2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J23297
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
HAN YUXUAN 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 骨転移 / 転移因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳がんの中でもluminalサブタイプは骨に転移しやすいが、その分子機構の解明は進んでいない。その理由として、MCF7などのヒトluminal乳がん細胞株は、従来の移植法では骨転移をほとんど形成できなかったことが挙げられる。 昨年度の結果(Han et al., 2020)より、尾動脈注射法(CAI)という新たな骨転移作製手法を採用することで、MCF7細胞から独自に高骨転移株MCF7-BM細胞を樹立することに成功した。この細胞は、溶骨型転移の表現型を示した。発現解析の結果、顕著に高発現している遺伝子の中には、腫瘍の悪性化に伴って発現するが機能が明らかになっていない遺伝子や、全く機能が明らかになっていない遺伝子が含まれていた。さらに、溶骨性骨転移を誘導する既知の骨転移制御因子PTHrPの発現をqRT-PCRによって確認したところ、BM細胞において変化が見られなかった。以上の結果から、MCF7-BM細胞の転移機構は既知のものとは異なる可能性が強く示唆された。MCF7-BM細胞は、luminalサブタイプ乳がんにおける転移機構を解明するための重要なマテリアルであり、その骨転移signature遺伝子群は、luminal乳がんの骨転移制御機構を理解する上で重要な遺伝子群であると考えられる。 今年度は、乳がん高骨転移株で変化する増殖関連シグナルの解析からc-junの発現増加を検出した。c-junは、発癌性転写因子で、様々な癌遺伝子を発現する細胞において上昇する。主に浸潤前の乳がん患者で高発現され、癌細胞の増殖と血管新生も促進できる。しかしながら、c-junとがん転移についての報告はほとんどない。そこで、乳がんの骨転移におけるc-junの機能に着目して研究を進めることにした。luminalサブタイプの骨転移研究は、新規がん転移バイオマーカーの提唱や転移標的治療薬の開発に繋がる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
20年度は、乳がん骨高転移株MCF7-BM細胞に対して、Western blottingを用いて増殖シグナルに関するタンパク質の発現解析を行った。その結果、MCF7-BM02細胞では、親株(parent)と比較してc-jun発現量の増加とそれに伴うリン酸化c-junの増加を認めた。その一方、c-junの上流であるJNKの発現量やリン酸化に変化はなかった。また、c-junとAP-1を構成するc-fosの発現量も変化がなかった。即ち、c-junの過剰発現はJNKではなく、別のシグナルから制御されていた可能性が示唆された。 そこで、luminal乳がんの骨転移におけるc-junの機能に着目して研究を進めた。ドミナントネガティブ型c-jun(TAM67)の発現により、活性化破骨細胞の数が減少することを示した。さらに、TAM67細胞あるいはBM02細胞を免疫不全マウスの尾動脈から移植し、非侵襲的な経時観察を行った。結果として、TAM67細胞によって形成される骨転移巣はBM02細胞のものより小さくなり、c-junの阻害により骨転移能が減弱することが明らかになった。また、wound-healingアッセイによる遊走能・浸潤能、soft agar colony formation assayによるトランスフォーミング能などのin vitro表現型の評価の結果から、TAM67細胞はBM02より遊走能やトランスフォーミング能が低くなっていた。 以上の結果は、2020年の日本がん転移学会、日本分子生物学会にて発表した。また、luminal乳がん骨転移株MCF7-BMの論文を20年度に発表し、さらに申請者は論文の共著者として2本の論文を発表した。今年度は期待以上の進展があったと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
c-junの下流で骨転移を制御する分子機構を解析するため、ドミナントネガティブ型c-junを発現する細胞株BM02-tam67について、RNA-Seqを用いて網羅的遺伝子発現解析を行う。MCF7-BM02細胞と比較して特徴的に発現している遺伝子を抽出したのち、RT-PCRやwestern blottingで発現量の変化を確認する。次に、これらの遺伝子を高転移株BM02においてKD株を作製し、TRAcP アッセイで破骨細胞分化能を評価する。その中から、破骨細胞の分化・活性化を制御できる遺伝子について、KD株をマウスに移植し、骨転移能を評価する。回収したマウスの転移巣に対して、組織免疫染色による組織解析を行うことで、c-jun下流シグナルの機能解析を行う。 並行して、過剰発現株とKO株を用いて細胞増殖、wound-healingによる遊走能・浸潤能などのin vitro表現型の評価を行う。また、The Cancer Genome Atlas(TCGA)などの大規模公共データベースに登録された臨床データを解析することで、同定したc-junの下流遺伝子の発現解析および生存解析を行って、臨床検体における予後予測マーカーになりうるか評価する。 一方、購入可能なJNK阻害剤を使ってBM02細胞にc-junの阻害実験を行う。最も低濃度でc-junのリン酸化を抑制できる阻害剤を用いて、BM02の細胞増殖、コロニーフォーメーション、浸潤能に対する阻害効果を評価する。さらに、c-junの阻害による骨転移への治療効果を調べるため、免疫不全マウスへ注射し、骨転移の頻度及び腫瘍の大きさを評価する。 得られた成果は日本がん学会などの学会で発表し、学術雑誌へ発表する(成果の一部は、21年度の第80回日本癌学会学術総会にて発表の予定である)。
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