2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Cognitive Models for Understanding Individual and Group Differences in Judgment
Project/Area Number |
20J23319
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野村 圭史 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 認知心理測定学 / 転置型項目反応モデル / 形式的双対性 / 意味論的双対性 / 画像データベース / 逆転個人 / 識別性 / ベイズ的二段階推定法 |
Outline of Annual Research Achievements |
実験心理学・認知科学分野で発展してきた認知モデルである信号検出モデル(Signal Detection Model, SDM)と心理測定分野で発展してきた測定モデルである項目反応モデル(Item Response Model, IRM)との関係についての予備的検討を起点として,両者の良い性質を兼ね備えたモデルである転置型項目反応モデル(transposed Item Response Model, tIRM)の開発に従事し,当該モデルを完成させたことが主な実績である。このモデルは,SDMとは異なり項目の特性を連続量として測定しつつ,IRMとは異なり認知プロセスの個人差を詳細に分析する必要のある実践において,その機能を発揮するものである。こうした実践の具体例として画像データベース管理を位置づけ,試行ごとのデータを公開しておりtIRMによる分析に適していると考えられる心理学研究用画像データベースを予備的に調査し,そこで同定された二種のデータベースへのモデル適用を開始した。うち1つのデータベースにおいては,tIRMの一種である転置型段階反応モデル(transposed Graded Response Model, tGRM)を適用した結果,画像内容の道徳性に関して多数派と真逆の評価を下す個人,いわば逆転個人の存在を検出し,逆転の程度を連続量で測定できることを確認した。この際生じる符号の識別性の問題に対して,マルコフ連鎖モンテカルロ(Markov Chain Monte Carlo, MCMC)法で得られたサンプルの事後処理に基づく従来法に比べてより簡便な方法として,MCMCのチェインの初期値の符号の事前設定に基づく対処法を試験的に運用した。この方法は,妥当となる条件をシミュレーションにより確定したのち,符号識別法として正式に実装する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度前半については,予定していた概念の整理およびモデルの構築において,当初の計画以上の進展があった。tIRMは形式的にはIRMにおける個人と項目の添字を入れ替えたモデルであり,サンプルサイズと項目数を体系的に変化させたときにモデルが適切に挙動する範囲についても,基本的にはIRMにおける知見を完全にとは言わないまでもかなりの程度そのまま参照することができる。こうした理由から,モデルの基幹部分の妥当性をシミュレーションで検証する必要が省かれ,計画よりも早い段階で適用先の実データの吟味に着手することができた。 年度後半については,当初の計画では年度内までに実データ適用において予備的な結果を得ている予定であったが,モデルの有用性を示すのに適した実データの吟味に予想以上の時間を要し,結果として全体的な進捗としては1,2ヶ月程度遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
第一年度後半からモデル適用を進めていた画像データベース等を引き続き主な対象として,推定法などの要素技術の開発や実データにおけるモデルの性能評価を進めることを予定している。 第二年度前半では,MCMCのチェインの初期値の事前設定に基づくパラメータの符号識別法の妥当性検証とtGRMの有用性評価を遂行する。符号識別法については,1)真値の符号が負となるパラメータが全体に占める割合,2)初期値に使用する乱数の分布のレンジ,の2条件を体系的に操作してシミュレーションを行い,生成データから真値を問題なく復元できる範囲を確定する。その後,妥当性を検証した符号識別法を実装して,結果として推定されたパラメータと個人属性との関連を分析する予定である。以上を6月までに遂行する計画である。ただし,当該データセットでtGRMの有用性を十分に判断できる結果が得られなかった場合,tGRMの有用性評価に最適化したデザインでデータを自ら取得する可能性も視野に入れている。 第二年度後半では,感情心理学研究用の画像データベースに,tIRMの一種である転置型双対サーストン段階反応モデル(transposed Dual Thurstonian Graded Response Model, tDTGRM)を適用し,主観評価の文脈に適した項目管理の実例を示す。技術的な方面では,DTGRMに伴う識別性の問題に対する従来の二段階推定法の問題点を,統計的推測理論の観点からの考察およびシミュレーションにより検討し,一段階目における個人パラメータ推定の不確実性を二段階目の項目パラメータ推定へと適切に伝播させるベイズ的二段階推定法を実装して,従来法と結果を比較する。早ければ8月から実装を開始する予定である。
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