2020 Fiscal Year Annual Research Report
透明酸化物薄膜トランジスタによるセンサ・オン・フィルムの創成
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20J23326
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
高橋 崇典 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 薄膜トランジスタ / 酸化物半導体 / 化学センサ / 信頼性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、透明酸化物半導体および薄膜トランジスタに基づく、IoT社会への実装を指向する化学センサデバイスの開発を目的としている。令和2年度は以下の内容に取り組んだ。 (1)センサ信号変換素子として用いる酸化物薄膜トランジスタの作製 In-W-Zn-O系酸化物に着目し、作製プロセスの最適化を行った。作製した薄膜トランジスタの特性値は電界効果移動度:43.6 cm2/Vs、しきい値電圧:-0.11 V、S値:73 mV/decadeであり、高電子移動度かつ低ゲート電圧領域 (<3 V) で飽和動作することを見出した。典型的な信頼性試験として、一定電圧下でのストレス時間に対するVthの経時変化を評価した。ストレス電圧として20 Vをソース・ゲート電極間に100 ks印加したが、しきい値電圧の変動量は+0.28 Vであった。また、ゲート電圧±20 Vの範囲で100回連続測定を行ったが、測定前後のしきい値電圧の差はわずか0.02 Vであった。このしきい値電圧の安定性は、センサ応用時における化学反応や分子間相互作用に起因する微小な電位変化を読み出す上で極めて重要な因子となる。 (2)高移動度酸化物薄膜トランジスタの信頼性解析 ゲートパルス電圧ストレス下におけるIn-W-Zn-O系酸化物を用いた薄膜トランジスタの信頼性劣化現象の解析を行った。ストレス時間の増加に伴いON電流とS値が劣化する挙動が観測された。エミッション顕微鏡を用いてゲートパルス電圧ストレス中のTFTを観測すると、ドレイン・ソース電極端から微弱発光が確認されている。これらの現象は酸化物TFTにおいてもホットキャリア劣化現象が存在することを示唆するものであり、高移動度酸化物薄膜トランジスタで顕在化する特異な劣化モードであることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はセンサ応用に向けた高信頼性・安定性を有する酸化物薄膜トランジスタを作製することを目的として研究を行った。In-W-Zn-O系酸化物を半導体活性層として用い、薄膜トランジスタの作製プロセスを最適化することで、申請時に目標としていた電気的特性および電圧ストレスに対する安定性を満足する素子が得られた。また、本薄膜トランジスタの信頼性解析では、高移動度酸化物薄膜トランジスタで発生する特有の劣化現象を発見し、そのメカニズムを提案した。この成果は既に論文として発表済である。以上より、本課題を遂行する上で重要な知見が得られているため、おおむね順調に研究が進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
化学センサに用いる信号変換素子である酸化物薄膜トランジスタの基盤技術は既に構築済みである。今後はフィルム基板上への実装を視野に入れ、最高温度200℃以下までプロセス最高温度の低減を図る。現状の作製条件では最高350℃であるが、250℃のプロセス温度の場合でもトランジスタ特性が得られることがわかっており、更なる低温化に向けたプロセス条件を検討する予定である。 また、分子認識素子の構築では、アミノ酸、生体アミン類を検出対象とする予備実験を行っている。本検出対象を認識可能なレセプタ分子を選定、最適化し、酸化物薄膜トランジスタの素子構造中に組み込むことで、高精度な化学センサの実現を目指す。
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