2021 Fiscal Year Annual Research Report
バクテリオファージの細菌叢制御を介した次世代型細菌感染症治療戦略の確立
Project/Area Number |
20J23348
|
Research Institution | Rakuno Gakuen University |
Principal Investigator |
中村 暢宏 酪農学園大学, 獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | ファージセラピー / バクテリオファージ / 薬剤耐性菌 / 細菌叢 / ファージ耐性 / トレードオフ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度では、獣医療でのファージ療法実施開始を目指して実験犬を用いてファージ投与安全性試験を実施した。 そして本年度では、酪農学園大学附属動物医療センターにおいてヒト医療を含め日本初となるファージ療法の臨床試験を開始し、2症例に対してファージ療法を実施した。そのうちの1症例は緑膿菌感染を伴う犬慢性外耳炎であり、複数種の緑膿菌ファージを混合させたファージカクテルを外耳道内に投与し、治療を行なった。一部外科的な処置も併用することで耳道内の菌数は顕著に減少し、完治に至った。また、耳道内の細菌叢解析を実施し、治療経過に伴う細菌叢の変化について調査したところ、緑膿菌を含むシュードモナス科の比率がファージ療法開始とともに減少していったことが明らかとなった。さらに、ファージ療法開始後にはファージの溶菌活性に対して抵抗性を持つファージ耐性菌の出現が認められた。全ゲノムシーケンスを実施し、ファージ耐性菌における変異遺伝子を検出したところ、線毛をコードする遺伝子変異が認められ、線毛が関わる細菌の運動性が低下していることがわかった。 上記のようにファージ耐性菌は試験管内、さらにはファージ療法を実施した犬の体内でも容易に出現することがわかった。しかしながら、ファージ耐性獲得の代償として細菌にとって不利益な表現型となる可能性を同時に見出した。このようなトレードオフの関係に着目し、他の細菌においても同様な現象が見られるか検証するために、in vitroでファージ耐性を獲得させたMRSAについて解析を行なった。すると、ファージ耐性化は2つの遺伝子変異に起因することがNGSを用いた変異解析から推定され、またその結果、薬剤感受性が向上し、さらには病原性が低下することを明らかとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では獣医領域におけるファージ療法臨床試験の開始を目標として掲げている。本年度はヒト医療よりも先駆けて日本で初めてその臨床試験を開始することができ、また実際に2症例に対してファージ療法を実施することができた。さらに、外耳炎に対する臨床試験では細菌叢解析を実施したところ、病原菌のみを減少させ、他の細菌種には悪影響を与えていないことがわかった。また、臨床試験を実施する過程で出現してきたファージ耐性菌の表現型変化に新たな研究の着想を得ることができ、さらに研究を発展させることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度のファージ療法実施の経験を生かし、2022年度も引き続きファージ臨床試験の実施とそれに向けた準備を行う。具体的には獣医領域において病原細菌として分離されやすい菌種に感染性のあるファージを複数種分離する予定である。また、随時ファージのゲノム解析、レセプター分子の特定、有効なファージカクテルの設計を行い、臨床試験をいつでも開始できる状態にする。ファージ療法実施の際は治療経過に伴うファージ耐性菌出現の動向とその変異遺伝子の特定、及び表現型の解析を実施することで、ファージカクテルの違いによる細菌の変異の方向性を推定することを試みる。また、MRSAのファージ耐性メカニズムと表現型の変化についてさらに詳細に解析するため、変異遺伝子を強制発現させる復帰試験と野生株を用いたknock out株を作成して検証を行う予定である。
|
Research Products
(8 results)