2020 Fiscal Year Annual Research Report
Development of the practical method to preserve freeze-dried spermatozoa at room temperature
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20J23364
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
伊藤 大裕 山梨大学, 医工農学総合教育部, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | フリーズドライ / 精子 / 遺伝資源 / 室温保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類精子の長期保存技術は、畜産や不妊治療、遺伝子改変個体を用いる研究など幅広い分野に利用される。液体窒素タンクや超低温冷凍庫を使用した凍結保存技術は広く利用されているが、維持費が嵩むことや事故・災害発生時に保存の継続が危ぶまれることなどが欠点として挙げられる。本研究では、“フリーズドライ(凍結乾燥)”技術を用いて、特殊な保存設備を一切使わずに、哺乳類精子を半永久的に室温保存する技術の実用化を目指す。 採用初年度はこの目標達成に向け、A.糖類などの試薬の添加により、フリーズドライ精子から仔が産まれる割合(出産率)の低さに対する改善効果の確認、B.真空ガラスアンプルを使用しない保存技術の開発、C.フリーズドライ処理と精子の保存状態の関係の検証を実施した。 このうち、真空ガラスアンプル瓶を使用しない保存技術の開発について、真空を維持したガラスアンプル瓶を使用するとフリーズドライ精子は室温で1年以上保存できることを報告している(Kamada, Ito et al, Sci Rep, 2018)が、ガラスアンプル瓶は割れてしまうと保存が継続できなくなってしまう。そこで研究代表者は、ガラスアンプルではなく薬包紙とプラスチック製シートを用いたフリーズドライ精子のシート保存技術を開発し、学会発表を行った(伊藤他,日本繁殖生物学会第113回大会,2020)。シート保存した精子のDNA保存状態や出産率はガラスアンプルと同程度であり、本成果は現在論文投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A.試薬の添加による低出産率の改善について:室温保存後の出産率の改善効果があったトレハロースと同様、当該年度に調べた試薬はいずれも、精子のフリーズドライ処理による著しい出産率の低下に対する抑制効果はなかったが、何種類も、何通りもある試薬やその併用方法の候補のなかから、複数種の試薬について調査を進めることができた。当該年度の結果を踏まえ、まだ調べていない試薬についても調査を行ったうえでの次年度以降の論文発表の準備を進められた。 B.真空ガラスアンプル瓶を使用しない保存技術の開発について:薬包紙とプラスチック製シートを用いた精子の保存技術について、従来法に劣らない精子の保存状態と高い再現性を確認することができた。まだ室温での長期保存には成功していないが、-30℃での数ヶ月間の保存に成功し、当該年度の成果を論文として投稿する段階まで進めた。 C.フリーズドライ処理と精子の保存状態について:最終的な目標の1つである、運動性を保った精子の室温保存技術の確立にはほど遠いが、真空乾燥処理と精子の運動性の保持について検証を行うことができた。また、フリーズドライ精子の出産率低下の原因は、フリーズドライ処理によるダメージが原因であるといわれてきたが、その証拠を示す実験系の確立に近づくことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
A.試薬の添加による低出産率の改善について:引き続き試薬の添加による産仔率の低下抑制を試みる。また採用2年目は、前年度までにまだ検証が進んでいない糖アルコールや高粘性溶液の使用を試す。出産率の低下抑制に効果が認められる試薬を発見した、あるいは効果のある試薬が見つからなかったとしても一定数の種類の試薬について検証が完了次第、論文として成果をまとめ投稿する。 B.真空ガラスアンプル瓶を使用しない保存技術の開発について:-30℃であれば数ヶ月間の保存に再現性高く成功しているが、現方法のままでは室温保存は数日が限界である。そこで採用2年目はシート保存技術の室温保存化を試み、ラミネートの代わりに真空パウチを使用したシート保存方法、凍結乾燥処理時間の延長、充填するガスの種類の変更およびガスの充填方法の検討を予定している。室温保存の長期化に成功したら成果をまとめ、目的B.における2報目の論文を投稿する。 C.フリーズドライ処理と精子の保存状態について:真空乾燥処理が新鮮精子の運動性に及ぼす影響を前年度までに調べたため、採用2年目では真空に晒した後や凍結融解した後に、運動性が低下した、もしくは運動性を失った精子の運動性を回復させる処理方法の検討、1時間以内の真空乾燥処理後に運動性を有する精子の割合を増加させる方法の検討、凍結精子を真空乾燥機に入れた精子の運動性の確認を詳細に行う。 いずれの実験も試行錯誤を繰り返しながら進行し、結果に応じて方策を適宜修正し、成果がまとまり次第論文を投稿する。
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