2020 Fiscal Year Annual Research Report
印欧祖語と韻律学に基づいた、インド・アーリア語の方言の同定
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20J23373
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塚越 柚季 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | サンスクリット / 韻律 / 喉音 / 歴史言語学 / 人文情報学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的である、印欧祖語に再建される喉音の残存有無と『リグ・ヴェーダ』の詩人家系との関係を明らかにするために、2020年度は、喉音 *h2 を中心に『リグ・ヴェーダ』の韻律分析を行った。それと平行して、韻律情報を付与した『リグ・ヴェーダ』の電子テクストの下準備を行った。3種ある喉音全てについて語形を調査して初めて詩人家系との関係を解明できること、その語形調査を反映したものが韻律情報を付与された電子テクストであることということから、本年度において、これらに関しての成果発表は困難である。韻律分析にあたって、喉音が関係する音変化を精査する必要があったため、それに関して国内の学会発表を行った。また、情報処理技術を活用したサンスクリット研究として、機械学習を用いて『リグ・ヴェーダ』の言語分析を行い、次年度の発表になるがその準備をした。特別研究員奨励費の本年度配分分は、これらの研究を行うのに必要な文献および一般的なコンピュータより高性能なものを用意するために用いた。 当初予定していた国際学会での発表や海外大学での研究などができなかったが、オンライン化の恩恵から所属機関外の講義に多く参加した。これによって、文献読解の能力向上や各種の関連言語の学習に集中できた。特に、インド・アーリア語と姉妹関係にあるイラン語文献の中でも、よく『リグ・ヴェーダ』と並べられる『アヴェスタ』を精密に読解する機会を得られたことは、今後の研究への影響が大きい。修士論文執筆段階で、イラン語における韻律計算を考慮に入れる必要性を理解していた。このような経験を得たことで次年度以降はより幅を広げた研究を行えると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、3種ある喉音の内の1つ *h2 を含む語形全てを調査することを計画していた。しかしながら、その量の膨大さおよび関係する音変化の考察から想定以上に調査の時間を要した。その一方で、次年度に予定していた電子テクスト作成への取り組みを前倒しした。これは自宅での研究時間が増えたことによりまとめて作業ができると考えたためである。研究課題の性質から短期的に成果を出すことが困難であり、本年度においては学会発表1件のみに留まったが、本年度の研究は次年度以降の準備期間として捉えた。 また、他大学においてではあるが『リグ・ヴェーダ』および『アヴェスタ』の読解の機会を得て、集中的に文献読解の訓練を行えた。教員や学生との文献購読によって、独力での読解では得難い知見を広めた。そのため、3年間全体を見た場合、1年あたりの達成度はおおむね順調であると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には喉音全種の調査を完遂させ、詩人家系との関係を究明する。*h2 に比べれば *h1, *h3 を含む語形は少ないので次年度内には調査完了が見込まれる。これに合わせて喉音が関係してくる音変化をまとめ上げ、必要ならば新たな説を提案する。また、アヴェスタという姉妹言語にも親しめたため積極的にイラン語を参照することを試みる。 電子テクスト作成の下準備は終えているため、今後はそれを公開/利用可能にする形に整える。国際的な標準規格に沿うのが適切であるため、それに必要な知識、技術を補填しながらテクスト作成を行っていく。しかしながらその規格のガイドラインに、本研究に必要なこと、例えば韻律復元の情報付与の方法などが定められていない。既存の手法を転用するにはどうすべきかについては、それを利用する研究者の意見を取り込まねばならないため、学会等への参加を通してこの問題を解決する。 次年度以降も国内外の学会参加や他機関での研究などが困難であっても、オンラインによる開催・参加が可能になったことから想定していたよりも多くの集まりに参加できると思われる。それを活かして、研究成果発表やそれに伴う研究者との意見交換、知識の拡充を図る。
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