2020 Fiscal Year Annual Research Report
Neuroscientific study in education on the theory and application of diagram use skills
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20J23507
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
綾部 宏明 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 文章題 / 図表 / 認知負荷 / 領域固有性 / 教科書研究 / 教員研修 / 認知慣性 / 習慣化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,図表知識が認知負荷を下げて問題解決を促すしくみを明らかにし,実践的指導法を提案することである。これまで自発的な使用を促す教授法,図表の性質と推論タイプの適合性(領域固有性)に着目した問題解決のしくみを実証してきた。図表知識の有効性を実証してきたが,教員が指導できる形となっていない。教員(研究者以外の実験者)による実践検証が2020年度の課題であった。 しかし,春からの新型コロナ感染症の拡大と非常事態宣言下の行動制限によって中学校(3クラス75名)で実施予定であった実践(準実験)が無期延期となった。研究活動においても,教員や同僚との学習・研究検討機会の減少,心理生理学実験における感染予防強化など,特別な配慮を要する状態となったため,計画の見直しが迫られた。そこで,次の2点を修正して対処した。 (1) 実践研究の規模を縮小して代替教場で実施:感染症対策が整っている学習塾の協力を得て小中学生24名に対して塾教師4名が図表スキルを教授する実験を実施した。実験デザインは,2つの群に表とグラフの領域固有的知識を,順番を入れ替えて教授し(表-グラフ/グラフ-表),表/グラフのいずれかが役立つと仮定した2種類の数学文章題をくりかえし解答させた(プレ/ポスト1/ポスト2)。データ収集をすでに完了し,現在分析と進めている。 (2)文章題における図表使用の有用性調査:文章題解決における図表の役割を調査することで本研究の意義を明確にした。図表が数学的問題解決に役立つことは理論的に示唆されているが,文章題を解くために図表を使用することが標準的かどうかどうかは不明であった。そこで,小1~6年の教科書(1社)における図表使用の様子を調べたところ,すべての例題において図表の使用が促されており,問題タイプと図表の種類に関連があることも示された。結果をまとめて国際ダイアグラム学会に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
未曾有の事態が研究活動に影響を与えた。心理生理学実験を軸に研究計画を立案していたため,実験を中断せざるを得なくなり,再開のめどさえ立たないという状況に陥った。研究所へ行くことが県外移動となるため,通所の自粛やリモートワークを余儀なくされるという状況も経験した。計画修正を余儀なくされたが,どのように対処すればよいのかが初めは明確ではなかった。 なぜ,対処法を用意できなかったのか。それは,これまで実験一辺倒の研究を進めてきたからだ。心理学や生理学においてヒトを対象とする実験は必須といえるが,まとまった研究を完成させるために実験は好都合という面がある。このことが研究計画を硬直的で偏らせていた可能性がある。実際にサルなどの動物を利用する方法もあるし,文献調査,質問紙調査などの手法もあったはずだ。 以上の省察から,実験に依存して研究を深めるだけでなく,多面的な視点から深みのある研究を計画していく必要があると考える。ふと立ち止まり,当初計画には2つの盲点があった。一つは一般性を欠いていた点である。これまでいくつかの実験によって問題を解決してきたが,それは狭い範囲を深めているだけで特殊なケースを検討しようとしていた可能性がある。もう一つは,社会的意義が不明確であった点である。提示してきた問題が社会的に本当に問題なのか,根拠が十分ではなかった。実験ばかりを進めるのではなく,文献・現状調査がおろそかにしないことが肝要だと気づいた。 一般性の欠如に対処するために研究計画を見直した。教育全般に有益な知見を提供できる研究デザインを検討している。社会的意義を確かめるためには,実際の教科書を調査した。これにより図表が文章題の標準的な解法として教えられていることを客観的に示すことができ,成果を国際学会に投稿できた。その他の業績も上げることができたことから,結果的に当初計画と同等の成果を得たと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
文章題解決で生徒は図表を自発的に使わないが,図表知識を与えると認知負荷 (Sweller et al., 1998) が下がり,自発性が高まることが示された(Ayabe & Manalo, 2018)。また,図表の領域固有的知識を与えると正答率が改善した(Ayabe et al., 2020)。しかし,神経科学的機序が不明であったため,生理指標(fMRI)を使って関連を明らかにすることを目的としていた。 しかし,担当教員の指導を経て次の3点の課題として浮き彫りとなった。まず,認知負荷概念の複雑さである。認知負荷は課題の認知コスト(WM需要)と心的努力(メンタル・エフォート)の影響を受け (Schnotz & Kurschner, 2007),客観と主観が織りなす概念である。そのため,実験操作は単純ではない。次に,転移性が担保されない点である。特定の文章題における介入を検討してきたが,別の課題へ転移を促すかは保証されないので,特殊な教授法の検討にとどまる可能性がある。より一般化させる工夫が必要である。最後に,導入可能性の問題である。図表のほとんどを小学校で習う。自発性欠如の理由は図表トレーニング不足と示唆されるが,中学以降ではそれを組み込む余裕がなく,過程よりも結果(解答)が採点で重んじられるという実情が背景にある。 そこで,習慣化に着目することでこれらの問題に対処する。図表使用を妨げる要因は,認知慣性(Cognitive inertia; 証拠があるにもかかわらず,古い信念を放棄することを拒否したり嫌ったりする性質)であると考えられる。そのため,認知慣性の大きさと報酬(動機づけ)を操作することで習慣化を図る介入を考案する。 前年度から引き続いて教科書等実情調査,学校,民間企業への協力依頼を継続して多面的にデータを収集し,本研究の意義と結果の妥当性を高める。
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Research Products
(5 results)