2021 Fiscal Year Annual Research Report
Development of a new biological control management of fruit flies, worldwide serious insect pests, on the basis of reproductive interference
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20J23739
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
久岡 知輝 滋賀県立大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ミバエ / 繁殖干渉 / スペシャリスト / ジェネラリスト / 寄主植物 / 種間相互作用 / 検疫害虫 / 系統 |
Outline of Annual Research Achievements |
果樹や果菜類の害虫であるミバエ類の寄主植物利用は、成虫が果実に産卵し、孵化した幼虫がその果実の内部を摂食することで農業被害をもたらしている。ミバエ類が加害する植物の利用パターンは種ごと、また同じ種でもあっても生息地域ごとに異なっていることが報告されてきた。 沖縄県に侵入したナスミバエBactrocera latifronsはナス科の植物を中心に利用するミバエ種である。本種は沖縄県に侵入・定着し、現在は沖縄県全域に蔓延している。本種の沖縄島に侵入した個体群と与那国島に侵入した個体群では、その寄主利用が違うことが指摘されてきた。そこで,本研究ではナスミバエ侵入個体群の遺伝解析を行うことで、沖縄県への本種の侵入と分布拡大経路の推定を試みた。 本研究では、遺伝解析によく用いられるミトコンドリアDNAを対象とした。 沖縄県各地のナスミバエについてミトコンドリアDNAのCOII領域およびND4領域をPCRし、ダイレクトシーケンス解析を行なった。その結果、与那国島を除く沖縄県で採集されたサンプルは全て同じ系統(以下、沖縄系統)に分類された。一方、与那国島で採集された個体については沖縄系統と沖縄系統と全く別の系統(以下、与那国系統)が混在していることがわかった。また、系統解析の結果、沖縄系統は中国、マレーシア、ハワイの系統に近いことがわかった。このことから沖縄系統は中国大陸、東南アジアから侵入した可能性が考えられた。一方で、与那国島の系統は地理的に隣接している台湾からの飛来が考えられた。 また、沖縄系統と与那国系統がともに侵入した与那国島のサンプルを中心に核遺伝子であるcryptochrome-1を対象として遺伝解析を行なった。その結果、二つの遺伝子座で沖縄系統と与那国系統の間で違う配列がみられた。そのため、今後はサンプルサイズを増やして、両系統間の遺伝的交流の頻度を調査しようと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では沖縄県に侵入したナスミバエを対象に遺伝解析を行ない、その侵入経路の探索を行なった。ナスミバエのミトコンドリアCOII領域とND4領域を対象に遺伝解析を行った結果、与那国島を除く沖縄県で採集されたサンプルおよび、与那国島で採集された一部の個体は全て同じ沖縄系統に分類された。一方、与那国島で採集された一部の個体については沖縄系統と別の与那国系統に分類された。系統解析の結果、沖縄系統はハワイへの侵入ナスミバエおよび中国、マレーシアなどのナスミバエに近く、与那国系統とは大きく離れた系統結果であった。このことから沖縄系統、ハワイ系統は中国大陸、東南アジアから侵入した可能性が考えられた。一方で、与那国島の個体は地理的に隣接している台湾からの飛来が考えられた。 また、今回唯一2 系統が侵入していた与那国島のナスミバエについて、年ごとの沖縄系統、与那国系統の変遷を追った。その結果、2004 年に捕獲されたすべてのサンプルは与那国系統であった。これらの個体は沖縄県に初めてナスミバエが定着し、そのあと不妊虫放飼法により根絶されるまでにとられたサンプルである。これに対して、再侵入後の 2019 年に与那国島で採集された個体では90%が与那国系統だったが、翌2020 年には 15%にまで減少し、代わりに沖縄系統の割合が急増した。そのため、与那国系統から沖縄系統へ置き換わりが生じたと考えられた。仮に沖縄系統が与那国系統を排除する機構をもっていると考えると与那国島以外に与那国系統が広がっていないことも説明できる。 さらに、沖縄系統と与那国系統がともに侵入した与那国島のサンプルを中心に核遺伝子であるcryptochrome-1を対象として遺伝解析を行なった。その結果、二つの遺伝子座で沖縄系統と与那国系統の間で違う配列がみられた。
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Strategy for Future Research Activity |
ミバエ類は地域ごとに生態学的性質が異なることが知られていた。例えば、寄主植物利用やフェロモン物質に対する誘引性などの違いが指摘されている。そのため、侵入種の由来を特定できれば、侵入種にあわせた有効な防除対策を策定することが期待できる。 本研究の結果、沖縄県に侵入したナスミバエは沖縄系統と与那国系統にわけることができることがわかった。与那国島にのみ2 系統が侵入し、近年沖縄系統による与那国系統の駆逐が生じていることが示唆された。一方で、これまでに遺伝解析に用いられた与那国島のサンプルは、各年10 個体未満と少ない。そのため、追加のサンプルを用いて、ダイレクトシーケンス解析を行う。また、併せて核遺伝子による沖縄系統と与那国系統の遺伝的交流の調査を行う。 沖縄系統と与那国系統の置き換わりの速度は3 年以内と素早いペースで生じている。与那国島にはミバエ類の天敵である寄生蜂もほとんどおらず、両系統は寄主選好性も異なっているため、資源競争も生じづらい。そのため、この現象は両者の非対称な性的対立の強度によって生じているのではないかと考えている。何故ならば、配偶に関わる形質は雌雄間の性的対立によって様々な方向に進化するため、たとえ同種であっても接触がほとんどない地域個体群が二次的に接触した場合、その強度が非対称になる可能性は十分に考えられるからである。幸いにも根絶された与那国系統は沖縄県農業研究センターで累代飼育されている。また、沖縄県に現在蔓延している沖縄系統も同センターで累代飼育されている。そこで両系統を用いて配偶行動の観察を行い、両系統がお互いの適応度に与える影響を検証する。ミバエ類では排除や資源分割,側所分布などが数多く観測されている。本研究の地域個体群ごとの排除のメカニズムを解明することで、種間で生じている現象についても議論したいと考えている。
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