2021 Fiscal Year Annual Research Report
シリコンナノ構造を駆使した光トラッピングに基づく化学反応制御の開拓
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20J23762
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
永井 達也 大阪市立大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 光ピンセット / 光圧 / 温度応答性高分子 / 液液相分離 / エネルギー移動 / 光誘起電子移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までは光ピンセットで形成した高分子液滴を利用した蛍光色素の濃縮について蛍光分光測定による評価を行ってきた。今年度はさらに発展させて、時間相関単一光子計測装置を構築し、高分子液滴内に濃縮した蛍光ダイナミクスを測定した。① フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)系と② 光誘起電子移動(PET)系のモデル実験系を対象に高分子液滴内に濃縮された蛍光色素の蛍光ダイナミクスを評価した。 FRETモデル系では、高分子液滴の外部ではドナー色素の蛍光寿命に変化はなかったが、高分子液滴内に濃縮されたドナー色素の蛍光寿命が1/2倍に短縮された。蛍光寿命の短縮はドナー色素からアクセプター色素へのFRETを意味しており、マイクロサイズの局所空間でのみFRETを誘起することに成功した。さらに、FRET効率から測定が困難であった高分子液滴内の色素濃度を定量的に評価することに成功した。 PETモデル系では、水溶性のペリレンビスイミドを合成しアミド誘導体と同時に高分子液滴内へ濃縮し、その蛍光強度の時間変化を追跡した。液滴形成から10分程度で蛍光強度が1/40倍に急激に消光したことを蛍光顕微鏡観察と顕微分光測定により明らかにした。この結果から電子ドナーと電子アクセプターであるペリレンビスイミドとアミン誘導体によるPETが示唆された。この現象における消光速度定数を見積もるために顕微吸収測定や顕微ラマン測定を用いて、液滴内の濃度を定量的に評価することを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は大きく二つの成果を得られた。 ①ドロップレット光化学反応場の構築: 水溶性高分子の水溶液中に光圧を働かせ、高分子鎖を捕捉すると液-液相分離が誘起され、レーザーの集光位置に高分子ドロップレットが形成される。この際、溶液中に微量に有機物(色素など)が存在すると、色素は高分子ドロップレット内に抽出・濃縮される。これを利用すると、そのような有機物の高感度分光分析が可能になる。また、抽出効率を光圧の強度で制御すると、ドロップレット内の色素の濃度制御ができる。そのような局所濃縮や濃度制御を巧みに利用し、このドロップレットを新しい光化学反応場として利用することを検討してきた。そして、集光位置のミクロ空間において、エネルギー移動のON/OFFを制御し、蛍光カラーを制御することに成功した。ドロップレット内で二種類の色素を抽出し、その励起エネルギー移動を誘起した。ドロップレットを形成しないと、エネルギー移動は形成されず、エネルギードナーの蛍光しか観測されない。ところが、レーザーを集光してドロップレットを形成すると、エネルギーアクセプターの蛍光が観測される。 ②油水界面におけるナノ粒子の光捕捉と光反応誘起: 油水界面は化学に極めて重要な化学反応場である。我々のグループでは、油水界面がナノ粒子の光捕捉を強力にアシストすることを見出した。そこで、モデル物質の光捕捉を発展させて、光化学反応への応用を検討した。光触媒となるチタニアのナノ粒子を油水界面に光捕捉し、液相に存在する物質(塩化金酸)の光還元を空間選択的かつ、高効率に誘起することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、顕微吸収測定と顕微ラマン分光測定により、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)液滴中に濃縮された電子ドナー(アミン誘導体)と電子アクセプター(水溶性ペリレンビスイミド)の濃度を定量的に評価する。得られた濃度から光誘起電子移動に伴う消光現象の速度定数を見積もる。PNIPAM液滴中とバルク溶液中における消光速度定数の比較を行い、高分子液滴中を反応場とした光化学過程のメカニズムを解明する。 次に、ポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)液滴によりモデル分子を濃縮させ、エネルギー移動と電子移動の解明を目指す。光ピンセットにより形成されるPVME液滴は昨年度まで用いてきたPNIPAMとは異なる構造を示す高分子液滴を形成する。このPVME液滴を反応場としたエネルギー移動と電子移動の過程を顕微分光測定と時間相関単一光子計測法により定量評価する。さらに、エネルギー移動と電子移動の効率に対する、照射レーザー光強度依存性と分子量依存性を明らかにする。 最終的に、エネルギー移動と光誘起電子移動を組み合わせた、三重項-三重項消滅に伴うアップコンバージョンの時空間操作の実証を目指す。水溶性のポルフィリン誘導体とジフェニルアントラセンを合成する。合成した化合物を光ピンセットで形成したPNIPAM液滴とPVME液滴それぞれに濃縮することで、アップコンバージョンを誘起する。短波長の発光は顕微分光手法と時間相関単一光子計測手法により測定し、その発光ダイナミクスを明らかにする。
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Research Products
(1 results)