2020 Fiscal Year Annual Research Report
ヒドリドのサイズ柔軟性を活かした新規ヒドリド導電物質の開発
Project/Area Number |
20J23793
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
生方 宏樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 複合アニオン化合物 / イオン伝導体 / 水素化物 / ヒドリドイオン伝導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題の目的は、複数種のアニオンの混合、すなわち「複合アニオン化」のコンセプトのもとに高いイオン伝導度を示すヒドリド(H-)イオン伝導体を開発することである。本年度、従来の単純水素化物や酸水素化物を中心としたヒドリドイオン伝導体探索の枠組みを超え、水素化ハロゲン化物のヒドリドイオン伝導体探索を行ってきたところ、有望なH-イオン伝導体の候補であるBa2H3X (X = Cl, Br, I)を見出した。Ba2H3X系は、2007年(X = ClおよびBr)と2011年(X = I)に、単結晶合成の報告があるのみであり、粉末多結晶の合成はなく、いずれの物性測定も行われていなかった。文献調査でBa2H3Xを見つけたとき、その結晶構造が従来最高のヒドリドイオン伝導度を示す六方晶BaH2に非常によく似ていることに気づいた。ただ、この六方晶BaH2は450度以上でのみ安定な高温相であり、そのためBaH2は450度以下の低温で伝導度が急激に低下するという問題点があった。一方で、Ba2H3Xは室温ですでに六方晶BaH2に類似する結晶構造を有していたため、優れたヒドリドイオン伝導性を期待してイオン伝導度測定を行ったところ、室温から300度という広範な温度領域で従来報告されていたヒドリドイオン伝導体を超える性能を発揮しており、特に室温付近という低温でもヒドリドイオンの拡散能を示すことを見出した。現在までに、X線および中性子を用いた結晶構造解析や交流インピーダンス法によるイオン伝導度測定といった主要な測定が終了しており、国際誌に論文投稿済みである。現在は、査読コメントへの対応およびそれに関連した追加実験を行っている。また、これに関連した特許を申請中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、ヒドリドイオン(H-)を含む複合アニオン化合物の探索およびヒドリドイオン伝導特性の評価を目的としている。計画当初は(1)従来研究されてきた酸水素化物系、(2)水素化ハロゲン化物系、および(3)未知物質(H-とS2-、N3-の複合アニオン化)の三本の物質群を軸とした合成・伝導特性評価を行う計画を立てていた。これまでに、(1)として、蛍石型構造をもつ酸水素化物LnHOにおける結晶構造とヒドリドイオン伝導度の相関について研究してきた。LnHOは、希土類カチオンLnの種類や、合成圧力に応じて、全体の骨格構造は共通の蛍石型構造であるが、アニオンの配列が異なる複数の多形構造をとりうる。申請者は、アニオン無秩序型構造とアニオン秩序型のLnHOを比較し、アニオン秩序型構造においてのみヒドリドイオン伝導性が発現することを見出し、その起源を固体化学的な観点から議論した。(2)に関連して、水素化ハロゲン化物を対象とした研究を遂行してきた。これまでに、従来最高のヒドリドイオン伝導度を示す六方晶BaH2高温相と類似の結晶構造をもつ水素化物ハロゲン化物Ba2H3X(X = Cl ,Br, I)に着目し、そのイオン伝導度を調べたところ、300度以下の低温領域で、従来の酸水素化物系や水素化物系ヒドリドイオン伝導体を超える優れたイオン伝導特性を示すことを見出している。この物質系における高イオン伝導性のカギは、ヒドリドH-とハライドイオンX-の層状アニオン秩序であり、このアニオン秩序により、室温でもBaH2高温相に酷似した高対称な結晶構造が安定化されていることが分かった。現在、これに関する論文を国際誌に投稿済みであり、査読コメントへの対応およびそれに関連した追加実験を行っている。また、関連する特許を申請中である。(3)については、今後の研究の推進方策に示した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、主に水素化物ハロゲン化物Ba2H3X系の拡張およびこれまでに得られている水素化物硫化物の物性測定を行う。Ba2H3Xの展開として、ハロゲン固溶体の合成に成功しており、これらのイオン伝導特性評価を予定している。また、Ba2H3Xに高圧を印加することで、伝導特性が温度に対して不連続に変化する興味深い現象を見出しており、外部の放射光施設や中性子施設の利用などの詳細な構造解析を行うための申請を行っている。しかしながら、コロナ禍の影響により、予定通りの実験が遂行可能か懸念が残る。例えば、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業を利用した共同研究として、分子科学研究所の小林グループにてイオン伝導特性の評価を行っているが、2020年11月に分子科学研究所に伺って測定を行って以来、現在(2021年4月)まで新たな測定を行えておらず、次回測定日は未定である。共同研究先とのオンラインでの打ち合わせを頻繁に行ったり、試料送付による測定依頼など行ったりしているが、今後の計画においてもコロナ禍の影響を大きく受けることは間違いない。 また、当初の計画にある新物質の開拓も推進する予定である。特に、リチウムイオン伝導体において研究対象が酸化物から硫化物へ拡張してきたように、分極率の大きなS2-アニオンを含む物質は有望なイオン伝導骨格を形成することが期待される。カチオンとしてアルカリ土類金属や希土類を用いて、La-H-S、Ba-H-S、La-Ba-H-Sなどの組成で新物質探索を行う。まずは、固相合成法や高圧合成法といった従来手法での合成を試みる。他に、ボールミルを用いた合成なども計画している。新物質の構造解析は、X線および中性子を用いた構造解析を行い、結晶構造を決定する。得られた新物質に対して電気化学インピーダンス法によるイオン伝導特性評価を行う。
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