2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヒドリドのサイズ柔軟性を活かした新規ヒドリド導電物質の開発
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20J23793
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
生方 宏樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 複合アニオン化合物 / イオン伝導体 / 水素化物 / ヒドリドイオン伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題の目的は、複数のアニオンを組み合わせる、すなわち「複合アニオン化」のコンセプトを基軸としたヒドリド(H-)イオン伝導体開発の推進である。本年度は、従来の単純水素化物や酸水素化物を中心としたヒドリドイオン伝導体をさらに拡張し、水素化ハロゲン化物のヒドリドイオン伝導体探索を行った。特筆すべき成果としては、Ba2H3X(X = Cl, Br, I)の組成をもつ六方晶水素ハロゲン化物における極めて高速なヒドリドイオン伝導を見出し、Sci.Adv.誌に報告したことが挙げられる。このBa2H3X系は、室温から300度という広範な範囲で従来報告されていたヒドリドイオン伝導体を超える性能を発揮しており、特に室温付近でもヒドリドイオンの拡散能を有することから無機物だけでなく有機物をも対象とした触媒反応への展開も期待できる。本物質系において高いイオン伝導度が得られた要因は、その対称性の高い結晶構造にあった。組成的に類似したBaH2(Ba2H3XにおけるX = H)は高温域で対称性の高い六方晶構造を有し、極めて高い伝導特性を示すが、450度で生じる相転移により低温域で伝導度が急激に低下してしまう問題があった。対照的に、Ba2H3Xは、H-とX-が層状に秩序した対称性の高い六方晶構造を有する。つまり、この層状アニオン秩序によって、Ba2H3Xでは、BaH2高温相に類似した高い対称性の構造が低温まで安定化されたとみなすことができる。実際、BaH2の高温領域の伝導度の温度依存性を低温側に外挿するとBa2H3Xの伝導度に一致する。この「アニオン秩序による高温相安定化」というコンセプトは、従来のイオン伝導体によく用いられてきた「ランダムな元素置換による高温相安定化」とは逆の新しい設計戦略であり、ヒドリドイオン伝導体だけでなく様々なイオン伝導体にも展開可能であると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、ヒドリドイオン(H-)を含む複合アニオン化合物の探索およびヒドリドイオン伝導特性の評価を目的としている。計画当初は(1)従来研究されてきた酸水素化物系、(2)水素化ハロゲン化物系、および(3)未知物質(H-とS2-、N3-の複合アニオン化)の三本の物質群を軸とした合成・伝導特性評価を行う計画を立てていた。これまでに、(1)に関連したトピックとして、蛍石型構造をもつ酸水素化物LnHOにおける結晶構造とヒドリドイオン伝導度の相関について研究してきた。LnHOは、希土類カチオンLnの種類や、合成圧力に応じて、全体の骨格構造は共通の蛍石型構造であるが、アニオンの配列が異なる複数の多形構造をとりうる。申請者は、アニオン無秩序型構造とアニオン秩序型のLnHOを比較し、アニオン秩序型構造においてのみヒドリドイオン伝導性が発現することを見出し、その起源を固体化学的な観点から明らかにした。その後、酸化物ベースの物質探索から、(2)に関連する水素化ハロゲン化物を対象とした研究を遂行してきた。申請者は、従来最高のヒドリドイオン伝導度を示すBaH2高温相と同形の結晶構造をもつ水素化物ハロゲン化物Ba2H3X(X = Cl ,Br, I)に着目し、そのイオン伝導度を調べたところ、300度以下の低温領域で、従来の酸水素化物系や水素化物系ヒドリドイオン伝導体を超える優れたイオン伝導特性を示すことを見出した。この物質系における高イオン伝導性のカギは、ヒドリドH-とハライドイオンX-の層状アニオン秩序であり、このアニオン秩序により、室温でもBaH2高温相に酷似した高対称な結晶構造が安定化されていることが分かった。(3)については、LnHOの関連化合物である新物質LnHSの合成に成功しており、この物質系において希土類イオンLnに依存した構造相転移現象を見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目は、主に水素化物ハロゲン化物Ba2H3X系の拡張およびこれまでに得られている水素化物硫化物の物性測定を行う。Ba2H3Xの展開として、ハロゲン固溶体の合成に成功しており、これらのイオン伝導特性評価を予定している。また、Ba2H3Xに高圧を印加することで、伝導特性が温度に対して不連続に変化する興味深い現象を見出しており、外部の放射光施設や中性子施設の利用などの詳細な構造解析を行うための準備を整えている。また、これまでに得られた新物質LnHSに関して、今後は、電気化学インピーダンス法によるイオン伝導特性評価を行い、LnHSで見出されたLnに依存した構造相転移とヒドリドイオン伝導度の相関を調べていく予定である。さらに、この物質系は多くの水素化物系材料と対照的に、水に安定であることから、電気化学測定中の大気安定性なども検討したい。 近年、ヒドリドイオン伝導特性とアンモニア合成触媒能の関連性について様々な議論が続いているが、たしかに、高性能なヒドリドイオン伝導体は、高いアンモニア合成触媒として機能する傾向があることが複数の論文から指摘されている。これまでに見出したBa2H3Xなどのヒドリドイオン伝導体について、アンモニア合成触媒等のヒドリドイオン伝導体以外の新たな展開についても探索する予定である。
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Research Products
(11 results)