2021 Fiscal Year Annual Research Report
人工知能(AI)による脳動脈瘤破裂リスク予測システムの開発
Project/Area Number |
20J30001
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
藤村 宗一郎 東京理科大学, 工学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 脳動脈瘤 / 人工知能 / 数値流体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は経過観察中に発生した脳動脈瘤(DeNovo)の症例に対して数値流体力学 (CFD: Computational Fluid Dynamics)解析を実施し,脳動脈瘤の発生に関与する血行力学的因子の調査について研究を実施した.計10例のDeNovo症例,及び経過観察期間がDeNovo症例より長く,その間に新たな脳動脈瘤が発生しなかった計34箇所をControl症例として脳血管に対するCFD解析を実施した.血管壁面の引張力を評価するWSSD(Wall Shear Stress Divergence)及びエネルギー損失を評価するPLc(Pressure Loss coefficient)を調査したところ,脳動脈瘤の発生箇所とWSSDの値が高い(上位5%)領域が一致しており,脳動脈瘤の発生には高い引張力が作用していることが示された.また,DeNovo症例群のPLcはControl群と比較して統計学的に優位に高かった(p<0.01).血流の衝突,あるいは渦を伴う二次的な流れが,血管壁に作用する高い引張力と高い圧力損失をもたらしていた. また,これまでに外科的治療を施行した脳動脈瘤の形状及び患者の臨床情報に対して学習を行うことで,外科的治療に伴う合併症の発症リスクを予測可能な機械学習モデルの構築を試みた.各種機械学習アルゴリズムのうち,CatBoostを用いた場合の性能が最も良好であり,血管内治療実施時の合併症発症リスク予測の感度,特異度はそれぞれ0.85, 0.76,開頭クリッピング実施時の合併症発症リスク予測の感度,特異度はそれぞれ0.75, 0.83であった. 本年度は以上の研究結果を始めとして,国際学術雑誌に計8報の論文として公表した.また,学会発表として国内学会にて計13件,国際会議にて計8件の報告を行った(共著含).その他,招待講演として2件の発表を行うなどした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はこれまでに未破裂脳動脈瘤のデータベースを構築してきたことで,経過観察中に脳動脈瘤が発生したDeNovo症例の患者を特定することが可能となった.脳動脈瘤が発生しなかった患者と比較した結果,血管壁表面の引張力,及び周辺血管における圧力損失が脳動脈瘤の発生に関与していることが示された.将来的に,血管に作用する引張力,及び血流の圧力損失を計算することによって,脳動脈瘤の発生リスクを予測できるようになる可能性がある.計10例以上のDeNovo症例に対する解析としては,確認できる限り世界的にも初の成果であり,各種メディアが研究成果を取り上げている.DeNovo症例に対するCFD解析実施は当初予定になかったものであるが,本研究の核である未破裂脳動脈瘤のデータベース構築により容易に対象症例を選定することが可能となり,得られた研究結果である. また,機械学習を用いた研究においては,血管内治療,開頭クリッピングのそれぞれにおいて,外科的治療に伴う合併症発症リスクの予測モデルを構築した (治療によってmRS (modified Rankin Scale)が悪化した症例を,合併症を認めた症例として定義した).合併症の発症に寄与する要素としては,いずれの場合も脳動脈瘤のネック径等のサイズに関与するパラメータや,脳動脈瘤発生部位が影響しており,臨床医らが抱く感覚と相違ない結果となった.これまで報告してきた脳動脈瘤の経過観察中の破裂リスクのみならず,外科的治療時の合併症発症リスクについても機械学習によりリスク評価できるようになる可能性が示唆されており,いずれの場合も,予測の感度,特異度は目標値である0.8近くにまで達している. 以上の理由より,当初の計画以上に研究は進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
DeNovo症例に対するCFD解析による脳動脈瘤の発生に関与する血行力学的要因の調査では,同様の先行研究と比較して最も多い症例に対して実施した結果であるものの,依然として解析症例数は10症例と少なくなっている.したがって,本研究で得られた知見を十分に検証するところまでは到達出来ていない.臨床的に,経過観察中に発生した脳動脈瘤に遭遇することは極めて稀であり,ヒト由来のデータ収集によって結果の検証を行うことは現実的ではない.そこで,ラット等を用いた脳動脈瘤の動物実験モデルを用いることで,血行力学的に同様の傾向が見られるかについて検証する方法を検討する.その際に細胞壁における炎症反応や,組織の状態等についても併せて観察することを検討する. また,未破裂脳動脈瘤に対する外科的治療を施行した際の合併症発症リスク予測モデルの構築についても,現状では収集したデータを予測モデル構築用と検証用に分類する形で感度,特異度の算出を行っており,構築した学習モデルが未知のデータに対して同様の性能を示せるかについては,未だ検証が不十分な点がある.同様の問題は,これまでに開発してきた脳動脈瘤の破裂リスクを予測する学習モデルについても言える.一方,本研究ではこれまで東京慈恵会医科大学のみならず国内外の機関と連携してデータの拡充を行ってきた.今年度は更に,追加で国内1施設において脳血管内治療を行った症例を中心にデータ収集を行っており,日米欧の計3カ国5機関におけるデータ収集は概ね完了している.今後,これまで予測モデルの構築に使用していなかった東京慈恵会医科大学以外のデータを検証用として用いることによって,予測モデルの精度向上を狙うとともに,構築した学習モデルの汎用性を示すことを検討する.
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[Presentation] 医科大学と理工系総合大学の大学間協定に基づいた医工連携による脳血管内領域での数値解析研究の実施2021
Author(s)
藤村宗一郎, 高尾洋之, 工藤元樹, 石橋敏寛, 菅一成, 加藤直樹, 渡邉信之, Katharina Otani, 福留功二, 大和田勇人, 山本誠, 村山雄一
Organizer
第37回NPO法人 日本脳神経血管内治療学会学術総会 (JSNET2021)
Invited
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[Presentation] 脳動脈瘤ビックデータベースの構築と人工知能(AI)の学習による未破裂脳動脈瘤に対するリスク予測2021
Author(s)
藤村宗一郎, 高尾洋之, 佐々木 貴大, 工藤元樹, 児玉智信, 石橋敏寛, Katharina Otani, 鈴木正昭, 福留功二, 大和田勇人, 山本誠, 村山雄一
Organizer
第37回NPO法人 日本脳神経血管内治療学会学術総会 (JSNET2021)
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[Presentation] Kasai T, Koseki H, Takao H, Fujimura S, Kato N, Kan I, Uchiyama Y, Yamanaka Y, Ishibashi T, Fukudome K, Murayama Y, Yamamoto M2021
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[Presentation] 動物実験モデルにおける動脈瘤発生に対するCFD解析の研究2021
Author(s)
葛西智基, 小関宏和, 高尾洋之, 加藤直樹, 菅一成,藤村宗一郎, 内山祐也, 山中悠真, 石橋敏寛, 福留功二, 山本誠, 村山雄一
Organizer
第37回NPO法人 日本脳神経血管内治療学会学術総会 (JSNET2021)
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[Presentation] Effects of Patient-specific Blood Properties and Inflow Conditions on Hemodynamics in Cerebral Aneurysms2021
Author(s)
Uchiyama Y, Takao H, Fujimura S, Suzuki T, Yamanaka Y, Otani K, Ishibashi T, Fukudome K, Yamamoto H, Yamamoto M, Murayama Y
Organizer
The Society of Vascular and Interventional Neurology 2021 Annual Meeting (SVIN 2021)
Int'l Joint Research
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[Presentation] 脳動脈瘤の血流解析における患者固有血液物性及び流入境界条件の影響に関する研究2021
Author(s)
内山祐也, 高尾洋之, 藤村宗一郎, 鈴木貴士, 山中悠真, Katharina OTANI, 石橋敏寛, 福留功二, 山本秀樹, 山本誠, 村山雄一
Organizer
第37回NPO法人 日本脳神経血管内治療学会学術総会 (JSNET2021)
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[Presentation] 血液の非ニュートン性がコイル塞栓術後の脳動脈瘤の血流解析に及ぼす影響に関する研究2021
Author(s)
佐藤実季, 高尾洋之, 藤村宗一郎, 内山祐也, 山中悠真, 内川隼杜, 湯澤和也, 石橋敏寛, 福留功二, 山本誠, 村山雄一
Organizer
第37回NPO法人 日本脳神経血管内治療学会学術総会 (JSNET2021)
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[Presentation] CFD解析を用いた脳動脈瘤壁の菲薄化に関与する血行力学的因子の特定に関する研究2021
Author(s)
増田和範, 高尾洋之, 藤村宗一郎, 蠣崎昭太,内山祐也, 山中悠真, 葛西智基, 角南昭太, 石橋敏寛, 福留功二, 山本誠, 村山雄一
Organizer
第37回NPO法人 日本脳神経血管内治療学会学術総会 (JSNET2021)
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