2020 Fiscal Year Annual Research Report
How can we describe the World / Global Art History? : The Circulation of Paper/Leather Crafts
Project/Area Number |
20J40131
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鵜飼 敦子 東京大学, 東京大学東洋文化研究所, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
Keywords | 世界美術史 / ジャポニスム / 金唐紙 / 金唐革 / グローバル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、工芸品に注目して、一方的な文化の影響論ではなく、文化の交渉史として歴史叙述を考えることである。このため、時代の転換期ともいえる19世紀末の一時期を輪切りにし、工芸品に焦点をあてて「金唐紙」と「金唐革」について調査することで、新たな美術の歴史を描く試みをはじめた。1年目となる本年度は、金属箔を貼った手すきの和紙に文様を彫った版木を重ねて凸凹をつけ彩色した、一見革のようにみえる紙「金唐紙」の調査、研究をおこなった。本研究では、「金唐紙」の地理・歴史的展開の可視化という目標をかかげており、すでに調査をおこなっていた国内5か所での調査結果をまとめ、歴史的文化遺産としての美術工芸品が実際に使用されていたことを確認した。また、その調査結果をまとめた思文閣出版の日本語版を韓国版として発刊し、一般に公表した。さらに、3年間を通した研究テーマとして掲げていた「世界美術史の構築」についても、大いに寄与することができた。具体的には、武漢華中師範大学でおこなわれたオンラインシンポジウムでディスカッションをおこない、これまでの時系列や国ごとの歴史叙述の手法にとらわれずに、工芸の世界循環史的考察をおこなうという提案をして、比較研究のあり方に問いかけをし、国内外の研究者と既存の研究の枠組みについて議論を交わした。これまで「日本がフランス美術に影響を与えた」とする狭義のジャポニスム研究や比較文化論に疑問を持って研究を進めてきたが、新たな研究の枠組みのモデルとなりえるアイデアや知識を、本年の議論を通して得ることができた。これらをいかして来年度以後には、理論面からも研究を進めたいと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「金唐紙」の地理・歴史的展開の可視化という目標を達成するために、調査の実施と研究成果の発表というふたつの側面に取り組み、研究は全体として滞りなく進展した。本年度は、研究計画にあげていた国内外での調査の実施が難しかったため、国内外の美術史研究調査の現状把握とグローバル・ヒストリーについての研究動向の把握をおこなった。1年目となる本年度は、すでにおこなっていた現存する金唐紙の調査結果をまとめ、その保存状態と分布を明らかにすることができた。具体的には、1年目の課題としてあげていた国内5か所での調査結果をまとめ、歴史的文化遺産としての美術工芸品が実際に使用されていたことを実証したこと、また、その調査結果を国際シンポジウムで発表し、「金唐紙」が1873年ウィーン万国博覧会に出品され注目を集めたことをきっかけに壁紙としてヨーロッパに輸出されたこと、さらに1900年のパリ万博ではイミテーション・レザー・ペーパー・ワークスとしてグランプリを受賞した経緯を「万国博覧会を飾った日本の革と紙―ジャポニスムを越えて」と題して思文閣出版から発刊された論文集『万国博覧会と人間の歴史』のなかで成果として公表していたが、その論文を韓国語版として翻訳出版した。 一方、当初予定していた海外での調査が実行できず、その点は残念であったが、可能な限り実地調査に代る結果を残せるよう下準備を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の到達目標は、これまでの美術史の認識について考え、その問題点を見直し、新しい美術史の解釈と叙述を作り出すということである。そうすることにより、宗教や民族、人間集団といった、これまでの歴史叙述の前提となっていた既存の枠組みを問い直すことができると考えるためである。人々が創りだした「工芸」に注目した歴史記述の新たな視点を提供することである。そして地球上すべての人間が、同じ地球という場所に帰属しているという意識を高めることにある。この大きな研究テーマに対し、紙と革の工芸に着目した美術史の叙述を試みているが、次年度では、当初予定していた海外調査がどの程度おこなえるかが未定の状況であるが、これまでの調査結果をまとめて分析し、それが歴史的にどのような意味を持つのかということまで考えることが必要となるため、理論整理が必要だと考えている。 今年度は、当初予定していた海外での調査が実行できず、その点はオンラインワークショップの参加やオンラインでの国際会議発表などに積極的に参加することで補ってきた。今後は、海外で予定していた調査機関の学芸員とも協力し、可能な限り遠隔で連絡をとりあい、実地調査に代る結果を残せるよう下準備を進める必要性を感じている。 国外での調査が難しい状況が続くことが予想されるが、非対面式のビデオツールを使った国内外での研究会やシンポジウムに積極的に参加し、とりわけ海外の研究機関で活躍する研究者と意見を交わす貴重な機会を増やしていきたいと考えている。これらの講演や議論を通して、新たなアイデアが生まれることも多く、本研究にとって非常に有用な経験となるため、時間の許す限り参加し、美術史以外の歴史学、人類学、経済学などを専門とする若手研究者や、海外の研究機関で活躍する人々と接して、今後の研究の進展とりわけ理論の組み立てに役立てたいと考えている。
|
Research Products
(4 results)