2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J40173
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
川上 知里 専修大学, 文学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 金沢文庫本仏教説話集 / 草案集 / 唱導資料 / 今昔物語集 / 説話文学 / 中世文学 / 院政期 / 仏教文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究課題ほぼ計画通り遂行している。具体的な研究業績として、著書『今昔物語集攷――生成・構造と史的圏域』(花鳥社、2021年3月)を刊行した。 本書はこれまでの研究成果である『今昔物語集』の既発表論文を中心にまとめたものであるが、『今昔物語集』に関連する作品・資料として、本研究課題の中心的作品である金沢文庫本『仏教説話集』(第二部第五章)と『草案集』(第二部第三章)についての論文を、新稿として執筆したものを含んでいる。 金沢文庫本『仏教説話集』と『草案集』は共に、院政期の唱導資料と考えられている。漢字片仮名交じりの変体漢文で書かれた資料を、まずは訓読体に直し、注釈を付けつつ正確に読解した上で、関連する唱導資料や説話作品の諸本を収集した。新型コロナウィルスの影響により、遠方への資料収集作業は難航したが、多くの所蔵機関がオンライン公開を行ったり、コピーを郵送で送付するサービスを開始したりしたこともあり、最低限の収集作業を行うことができた。ただし、実際に訪れなければ目にする事ができない資料も残されているため、それらの収集作業は次年度以降の課題とする予定である。 この二つの作品は、唱導資料でありつつも文学的説話を複数含み込むという複雑な性質を持つものであり、その作成意図や生成過程は十分に明らかにされてこなかった。今回執筆した二つの論文は、関連資料との比較検討作業や細かな注釈作業の成果をふまえ、両作品の生成過程や特徴を明らかにしたものである。 また、それぞれの生成過程や特徴が、共通する説話を含む他作品とどのように異なるかを検討することで、既存説話を唱導がどのように利用し、変容させたのかを明らかにしており、本年度における課題を果たしたものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、、院政期の説話集を分析・調査し、既存説話の受容方法や変容方法の実態を明らかにするという目的のため、具体的な対象を一年につき一つ、計三点設定している。 当該年度は初年度ということで、そのうちの金沢文庫本『仏教説話集』を取り上げ、それらに関連する資料収集と作品分析を行う予定であった。 ただ、二年度目に扱う予定であった『草案集』も、金沢文庫本『仏教説話集』と同じく唱導資料に該当し、両作品に関連する資料には共通するものが多く含まれるため、両作品の関連資料を当該年度に併せて収集することができた点は、計画以上の進展と見なすことができる。 しかし、新型コロナウィルスの影響もあり、直接現地に赴き現物を確認することが難しかったため、収集しえなかった資料も複数存在し、それらの収集・調査作業に関しては次年度に取り組む予定としているため、(2)おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
二年度次、並びに三年度次の研究は、当初の計画通り、『草案集』と「往生伝」類を対象とし、これらの資料・作品を分析・調査し、既存説話の受容方法や変容方法の実態を明らかにする予定である。 このような研究を推進するにあたり、関連資料を現地に赴き収集し、調査する必要性があるが、新型コロナウィルスの影響もあり、遠方への移動が難しいという問題点が生じている。 昨今ではオンライン上に資料を公開したり、郵送によるコピー取り寄せサービスを行う機関も増えているため、出来る限りはそれらのサービスを利用することで、資料収集に努める予定である。 ただし、どうしても現地に赴き、確認・閲覧しなければならない資料も存在するため、社会情勢を見極めながら、そのような作業も行っていきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)