2021 Fiscal Year Annual Research Report
中高年の老前準備を促進または阻害する要因に関する社会心理学的研究
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20J40175
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福沢 愛 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 認知的方略 / 社会参加 / well-being / 生きがい感 / 老前準備 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はweb調査、インタビュー調査兼プレ実験を行った。web調査の結果、予測通り、認知的方略のSO者(方略的楽観主義者)とDP者(防衛的悲観主義者)は、RP者(真の悲観主義者)やLM者(メタ認知低群)より老前準備を行う傾向が見られた。更にこの調査では、老前準備の重要な側面である地域活動への参加に着目し、地域活動をする若い住人の傾向について詳細に検討した。地域活動に参加する若い住人にはSO者やDP者が多く、そうした住人は、生きがい感の3側面(肯定的感情・未来志向的側面・社会志向的側面)がすべて高い傾向が見られた。少数ながらRP者やLM者もおり、そうした住人は生きがい感の未来志向的側面や社会志向的側面が低い傾向があった。RP者やLM者が地域活動に参加することになっても、将来の可能性を伸ばしたいという思い(生きがい感の未来志向的側面)や、自分が社会の役に立っているという思い(生きがい感の社会志向的側面)を高めることができていない可能性を示唆するものである。 更に、研究フィールドにおける地域活動のコアメンバーを対象としたインタビューの結果、現在地域活動のリーダー的存在であるコアメンバーはSO者であり、その他のコアメンバーにはLM者やRP者が多いことが分かった。更にすべてのコアメンバーは認知的方略の分類に関わらず、生きがい感の3側面すべてが高い傾向も見られた。web調査の結果からは、LM者やRP者は地域活動を通して生きがい感の未来志向的側面や社会志向的側面を高めることが難しい傾向が示唆されたが、コアメンバーになるなど、より積極的な地域活動は、RP者やLM者の未来志向的、社会志向的側面の生きがい感も高める効果があると考えられる。 どのような認知的方略を持つ者が地域活動のリーダーに適しているのかが示されたことで、2022年度の介入研究の土台として重要な知見が得られたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の最も大きな成果は、老前準備や、その一環である地域活動を、積極的に行う人々の認知的方略の傾向について詳細な検討を行うことで、2020年度までの知見を、2022年度の介入研究につなげることができたことである。 web調査では、LM者やRP者である住人は地域活動を行っていても、生きがい感の社会志向的側面や未来志向的側面を高めることができていない傾向が示された。これは、老前準備を促進するためにはパーソナリティに応じた介入が必要であるという当初からの予測を支持する結果であった。2021年度は、当初は研究フィールドにおける地域住人を対象とした質問紙実験を予定していた。しかし緊急事態宣言によって当初の予定よりもオンラインでのイベント開催が増えたこと、地域住人との交流の中で「若い人たちにももっと地域活動に参加してほしい」というニーズが多かったことにより、プレ実験を兼ねたインタビュー調査で、若い住人たちの生の声を聴くこととした。インタビューの結果、地域活動を行う人の中でもリーダー的存在である住人のパーソナリティの、ある程度のパターンを知ることができ、また、コアメンバーの中ではRP者やLM者であっても、社会志向的側面や未来志向的側面の生きがい感が高い傾向が見られた。こうした知見は、今後、若い人たちにおいて地域活動や老前準備を促進するためには、最初にリーダーに適したパーソナリティを持つ住人に中心人物となってもらい、そうした人物を中心に活動の幅を広げていくことが、効果的であることを示唆するものであった。 こうした研究に取り組みつつ書籍や論文の執筆を行い、2021年度には日本語論文1件、英語論文1件が採択され、書籍も刊行された。また、ワークショップでの話題提供、国内外での学会発表も行った。研究の進捗も成果の発表状況についても、おおむね計画通りの研究活動ができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には、特に若い住人の、老前準備の一環としての地域活動を促進する介入研究を行う。まず、2021年度に引き続きインタビュー調査を行う。2021年度にはコアメンバーのみを対象にしていたが、対象をより若い住人や、現在積極的に地域活動をしていない住人に広げ、質的データと量的データを測定する。質的データに関してはMaxQDAなどを利用した詳細な質的分析を行い、得られた知見に関して学会発表や論文執筆を行う。 また、現在のコアメンバーと連携を取りながら、地域活動に継続的に参加する人々を増やす介入を行う。2021年度の研究により、地域活動のリーダーになるのに適した認知的方略やパーソナリティがあることが示唆された。事前にパーソナリティを測定し、介入初期にはそうしたパーソナリティを持つ住人にリーダーとなって活動を進めてもらう働きかけをすることが、地域の活動を活発にするためには効果的であると考えられる。事前のパーソナリティ測定を行い、研究フィールドである地域で6カ月程度の介入を行う。介入の前後に社会関係資本やwell-being、老前準備への意識を測定し、また随時フォーカスグループインタビューを行い質的データも測定する。 新型コロナウィルスの影響で十分な調査協力者を得られない可能性もあるため、業者に委託してのウェブ調査も行う予定である。またこれまでの知見を主に国内の学会に発表し、研究会へも積極的に参加する予定である。2020年度、2021年度に得られた未公刊の知見については、国内外の雑誌に投稿予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Book] 集団心理学2021
Author(s)
大橋 恵
Total Pages
288
Publisher
サイエンス社
ISBN
978-4-7819-1522-7