2021 Fiscal Year Annual Research Report
動物初期胚において胚葉形成と発生運命決定をおこなう遺伝子発現調節システム
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20J40280
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林(徳岡) 三紀 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 遺伝子発現調節 / 初期発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ホヤ胚のもつ特徴を利用し、受精卵から胚葉形成を経て発生運命決定に至るまでの遺伝子発現調節システムの全体像を、単一細胞レベルの解像度で明らかにすることを目標に行われている。 32細胞期から胚性の発現を開始する13個の調節遺伝子を対象に、実験と遺伝子発現調節シミュレーションを繰り返して行ない、それぞれの遺伝子の発現に必要な上流の調節因子の組み合わせを示す調節関数を決定した。また、この解析で得られた調節関数を利用して、13個中12個の調節遺伝子について、遺伝子の発現を自在に制御できることを確認した。唯一の例外はNodalで、得られた調節関数を利用しても、Nodalの発現を引き起こすことはできなかった。このことから、Nodalの発現調節に関しては、得られた数式は必要条件を示すものの、十分条件を示していないと考えられた。既知のデータから、これまで解析対象に含めていない調節因子あるいはその補因子のうち、初期胚で発現しているものを探し出し、スクリーニングを行った。その結果、転写補因子であるFog (Friend Of Gata)がNodalの発現に関与していることが分かった。得られた調節関数にFogを加えることで、Nodalの発現も自在に制御できることが確認できた。他の動物において、Fogは直接DNAに結合して働く転写因子ではなく、転写因子Gataと相互作用して転写を調節する補因子として知られている。ホヤにおいてもFogはGata(Gata.a)と共に機能していることを示唆する実験結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までは、32細胞期から胚性の発現を開始する13個の調節遺伝子を対象に、実験と遺伝子発現調節シミュレーションを繰り返して行ない、それぞれの遺伝子の発現に必要な上流の調節因子の組み合わせを示す調節関数を決定した。 本研究の解析で得られた調節関数を利用すれば、遺伝子の発現を自在に制御できるはずである。実際に本研究で対象としている13個の遺伝子中12個については、期待通りの結果が得られた。しかしNodalについては、得られた調節関数を利用してもNodalの発現を引き起こすことはできなかった。このことから、Nodalの発現調節に関しては、得られた数式は必要条件を示すものの、十分条件を示していないと考えられた。そこで、Nodalの発現に必要な新たな因子を見つけるためのスクリーニングを行うことにした。そのスクリーニングに時間がかかり、当初の計画より若干進捗が遅れている。しかし、スクリーニングの結果、Nodalの発現に必要な新たな因子Fogを見つけることができ、これにより13個の調節遺伝子全てにおいて、発現に必要かつ十分な上流因子の組み合わせを示す調節関数を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
64細胞期に発現を始める調節遺伝子30個(23の異なる発現パターンを示す)を対象に、それぞれの発現調節機構を解明する。32細胞期の場合と同様にそれぞれの下流遺伝子ごとに発現を説明できる上流因子の組合せを明らかにする。上流因子と下流の調節遺伝子の数は限られており、また32細胞期の研究において確立した方法論が適用できることから、本研究計画は十分に実現可能であると考えている。 しかし実際には、30個全ての調節遺伝子についての解析を同時に進めることは時間的に困難だと考えられる。まずは、組織の特殊化に関わるキー遺伝子を含む12遺伝子(T, Mrf, Twist-r.a, Mnx, Otp, Smyd1, Hand-r, Foxb, Nkx2-1/4, Msx, Gata.b, Dlk)について、それぞれの発現を説明できる上流因子の組合せを明らかにしていく予定である。 上流因子の候補として、母性因子、16細胞期から発現を始める調節因子、32細胞期から発現を始める調節因子が挙げられる。これまでに調節因子の機能阻害にはMOを用いてきた。しかし、32細胞期に発現を始める調節因子13個に対しては、有効なMOがないものがある。そこで、それらの調節因子に対してはゲノム編集技術(TALEN,CRISPR/Cas9)を用いた機能阻害を考えている。
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