2021 Fiscal Year Research-status Report
Reasons for ethical actions: subject and object / internal and external
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20K00016
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
柴崎 文一 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (90260124)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | パーフィット / 理由と人格 / 人格=関係R / 理論X / 統一理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
D. パーフィットは、行為の外在的・規範的理由の実在性を強く主張する論者として、現代の英米系倫理学において、最も大きな影響力を持つ哲学者の一人であると言ってよいだろう。本研究は、前期パーフィットの主著『理由と人格』Reasons and Persons, 1984(以下、RP)における倫理学的議論に関する検討から始め、後年の『重要なことについて』On What Matters, 2011-2017(以下、OWM)において提起される「三重理論」と「対象主義/外在主義」に関する考察を通して、パーフィット倫理学の全体像を描出するともに、その特質に関する批判的検証を目的とするものである。 パーフィットはRPにおいて、独自の〈人格=関係R〉論を提唱し、ウィリアムズの内在主義を発展させた「批判的現在目的説」を提起している。そして「我々一人ひとりには、道徳性を気遣うことと、他者が必要としていることを気遣うことの両方が、合理的に要求されている」と主張する。本研究では、こうした「要求の主体(主語)」は何であると考えられているのか、という問題に関する検討を通して、彼の〈人格=関係R〉論と倫理学説の関係を考察した。 RPでは〈人格=関係R〉論の観点から「常識道徳」を改訂し、そこから得られる「理想的動機理論」と「実践的動機理論」を帰結主義に導入した「統一理論」の構想が示されている。またこれに加えて、世代間倫理に関する諸問題を解決するための「理論X」も要請されるが、これらの理論はRPにおいて完成には至っていない。本研究では、〈人格=関係R〉論を基盤として提唱される彼の行為帰結主義の観点から、これらの理論を統一的に解釈することを目指すと共に、これらの理論が未完成となった理由を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特に研究の妨げとなる事由がないため、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
第3年度は当初の計画通り、『重要なことについて』On What Matters, 2011-2017(以下、OWM)を中心に、パーフィットの後期倫理学理論の検討を行う。 パーフィットはOWMにおいて、RPでは完成させることが出来なかった「統一理論/理論X」に相当するものとして、「規則帰結主義的原理」、「カント的・契約論的原理」(パーフィットはカント倫理学の基本的な主張を義務論ではなく、契約論であると解釈する)、「スキャンロン的・契約論的原理」によって構成される「三重理論」を提起する。パーフィットによれば、これら三つの原理は、最終的には同じ一つの原理に「収斂する」とされる。はたしてこのような「収斂」は可能なのか、カント倫理学と帰結主義は両立可能なのか等、三重理論における多くの問題点を検証する。 またパーフィットによれば、上記三つの原理に従うことは、我々に客観的に与えられる「規範的理由」に基づく要請であり、さらにこの「理由」が客観的なものであることは、非形而上学的真理として認識される、と言われる。規範的理由の客観性及び、非形而上学的認識の妥当性に関する彼の主張に対しては、既に幾つかの批判が提出されているが、現状では定まった議論の方向性は見えていない。理由の規範性、規範の客観性、客観性の認識根拠等の問題を検証し、道徳的行為の理由に関する申請者自身の見解を提起する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の流行により、計画通り旅費を執行できなかったため。残額は本年度の消耗品費として執行の予定。
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