2020 Fiscal Year Research-status Report
日常的思考と行動の基盤の不安定化・喪失からの回復にかんする哲学的研究
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20K00020
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 言語論 / 戦時性暴力 / 証言 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日常の思考と行動が依存する、他者を含む世界についての予期が裏切られる事態による、思考や行動の主体としての地位の危機からの回復の過程を考察の対象とする。本年度は、こうした事態のうちでも、紛争や抑圧的な政治支配のもとでの歴史的な不正義、とくに戦時性暴力の問題に焦点を当て、被害者が、自らの被害について語ろうとするさいの困難と、逆に語りを支援し促進する諸要素について考察することを目指した。ここで直接的な関心の対象になったのは、韓国のいわゆる「従軍慰安婦」被害者が戦後40年以上を経て名乗りで、自らの経験について語り始めた事象である。ここでは、被害者の語りと社会的な訴えを促進する動きと、語りを抑圧し、あるいは出来合いの歴史観による「物語」の枠に押し込む政治的・社会的圧力とを視野に入れた。この具体的事例については、早い段階である程度検討を進め、問題を整理した。これを発展させて、阻害抑圧されがちな被害の語りの形成と、それが被害者の属する社会において、また加害責任を負う側によって、どのように受け止められるかという問題を、政治的・社会的な力によって歪められた不均等な関係の中でのコミュニケーションという視角から、言語論的な手法、とくに言語行為論の枠組みによって分析するという着想を得ることができた。言語論については、迂遠なようであるが言語行為論の出発点にあるオースティンの業績を参照するところからスタートすることとし、端緒的な考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
COVID-19の感染拡大によるオンライン授業等への対応で、研究時間を十分に確保することができなかった。また、予定していた学会発表の取りやめ等により、進行中の研究に関するフィードバックを得ることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
性暴力からの回復における主体のあり方の変化を「語る主体」に焦点をあてて考察した小松原織香の研究(『性暴力と修復的司法』成文堂2017)を参照し、その「語り」を言語論の諸議論と付き合わせることによって、本研究の言語論的な側面の深化を図る。また、そのことをつうじて、平時の犯罪としての性暴力にたいする戦時性暴力の特殊性についての、本研究に独自の視覚からの分析を行う。 また、本研究が本来持つ対象の幅広さに見合うようなしかたで、被害の語りの対象領域を広げると同時に、不正義や犯罪の被害にとどまらず、例えば自然災害の与える精神的外傷からの回復における対話の役割等についても考察の対象に加えていく。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大の影響で研究時間の十分な確保ができず、研究費についても、支出の計画を適切に立てることができなかった。2021年度は、研究の計画的な遂行に努めるとともに、引き続き国内外への出張の困難が予想されるため、資料収集に重点を置くとともに、オンラインでのセミナー等の可能性について検討する。
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Research Products
(2 results)