2022 Fiscal Year Research-status Report
日常的思考と行動の基盤の不安定化・喪失からの回復にかんする哲学的研究
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20K00020
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
伊勢 俊彦 立命館大学, 文学部, 教授 (60201919)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 種差別主義 / 個体性 / 物質循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
日常的思考と行動の基盤の不安定化・喪失の要因は、他の人々の行動や社会的な力の作用と、自然界に属する力の作用に大別できる。21年度は主に前者、その中でも紛争や抑圧的政治支配のもとでの歴史的不正義を考察したのに続き、22年度は後者、とくに自然災害による被害と喪失について研究を進めることを構想した。しかし、研究代表者が年度を通じて病気により休職したため、研究計画を遂行することは不可能となってしまった。ただし、そうした中でも、自然界の力の働きが人間の日常的思考と行動の枠組みに対して提起する問題の側面として、災害の問題に止まらず、自然界の物質循環そのものがあることに気づくことができたことは、今後の研究計画遂行にとって小さくない手がかりである。より具体的に言えば、エマヌエーレ・コッチャが『メタモルフォーゼの哲学』(勁草書房2022)で論じるところによれば、人間を含むすべての生き物は、食べることを通じて他の生き物を自分のうちに取り込んでいると同時に、食べられることによって自らの体で他の生き物を養う。このことは、個人の生と死のもつ重要性、人間の遺体がもつ他の物体とは異なった特別の価値という直観に反している。こうした、個人個人の特別な価値という考え方は、人間以外の動物について考える際にも個体にとっての利害善悪を考慮すべきであるとする、考え方に通じ、この考え方は、現在大きな影響を持つ種差別主義批判のもとにある考え方につながっている。逆に言えば、このような個体重視の考え方を見直すことは、人間の生死についてと同時に、人間と人間以外の動物についての倫理的な考え方を見直すことにつながる。ここに注目することによって、人間の日常的思考のもう一つの他者である動物について、新たな視野が開けることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究代表者の病気休職により、研究計画の遂行が不可能になったため、
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、個人の死に直接関わる問題として、もっぱら自然災害による死、それに伴って特に近親の人々が経験する喪失を想定してきた。これに対して、歴史的不正義の問題からは、紛争や抑圧的政治支配の中で引き起こされる死と喪失の問題が提起される。また、自然界の物質循環からの観点からは、個人の死は特別な意味を持つのか、持つ場合にはどのような意味を持つのかが改めて問題となる。こうした課題を念頭に、立命館大学内外の研究者とも連携し、単独ないし共同でのセミナー開催等を通じて、研究計画の推進を図る。
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Causes of Carryover |
研究代表者が病気により休職したため、研究費の執行ができず、次年度使用額が生じた。研究計画の遅れを取り戻すため、積極的にセミナー等の組織を行う。
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