2020 Fiscal Year Research-status Report
九鬼周造の全集未収録原稿等の整備・解読・解釈に向けて
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20K00021
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
川口 茂雄 甲南大学, 文学部, 准教授 (90830050)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス哲学 / 哲学史 / 19世紀 / 超越論的哲学 / 認識論 / パスカルの賭け / 精神史 / 歌物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画のうち②と③に重点を置き、コロナウイルス禍下で可能な事柄において研究を実行した。とくに哲学史的な研究に焦点を当て、九鬼周造の哲学史研究にかんする検討、および哲学史的・精神史的な観点からの九鬼の位置づけということに、いくつかの方向からアプローチを試みた。 2020年7月に、フランス大革命からの19世紀にも重点を置く仕方での、フランス哲学史記述の日本(語)における新しい試みを含む仕事として、共編著(越門勝彦・三宅岳史共編)『現代フランス哲学入門』を刊行、アウトプットすることができた。九鬼周造によって本格的に開始された19世紀フランス哲学史にかんする日本での研究を、近年の歴史学的・哲学史的な視野の更新に対応する、歴史上の事象や「…主義」にかんする前提を再吟味する方向性を伴った論構成で取りまとめ社会に提供するという意義を持つものであった。 2020年10月31日に、哲学会第五十九回研究発表大会第1日ワークショップ「19世紀フランス哲学再考――反省哲学の系譜から」において、研究発表「ラシュリエ『パスカルの賭けについての覚書き』―― 解釈と19・20世紀哲学史における意義解明に向けて」をおこなった。フランスにおいて初めてカントの超越論的哲学の深く理解した人物とされるラシュリエのこの時代における特別な位置づけにかんしては九鬼周造が『現代フランス哲学講義』で述べていた通りであり、その未解明な側面も多い思想とその同時代的関連について、第三の主著「パスカルの賭けについての覚書き」を題材として、報告をおこなった。 2021年3月4日に、第2回九鬼周造記念講演会(甲南大学人間科学研究所主催)を、企画担当・司会として実施した。串田純一「偶然に響く言葉の行方」講演をめぐってディスカッションがおこなわれ、九鬼の偶然論と歌論との本質的連関が「歌物語」という補助線から明らかにされる有意義な場となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は一年度間がコロナウイルス禍下にあった。大学施設内への立ち入りが禁止ないし自粛要請される期間が相当に長くあった。そのため、一定の場所から持ち出しを許可されない類いの貴重資料にかんして専門家が物理的に集まって検討を実施するといったことはきわめて困難となり、大幅な面において断念を余儀なくされた。この状況に対応すべく、当初計画のなかにあった4つのモジュールのうち、①については保留するものの、②と③にかんしてコロナ禍下で可能である事業をいっそう重点的積極的に実施してゆくことに方向の微調整をおこなった。その結果、とくに19世紀フランス哲学史研究に関連する事柄については相当程度のアウトプットを集中的に遂行することができた。また第2回九鬼周造記念講演会の開催は諸事情による困難にかかわらず、当初予定からの延期はあったものの何とか年度内に実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
九鬼関連の新発見資料・未整理資料にかんする整理作業はコロナウイルス関連の状況を見定めつつ、可能な範囲で実施をおこなってゆきたい。文献学的な作業から哲学史的ないし哲学的な作業への重点の微調整は継続してゆくことになるだろう。海外での文献調査は当初計画にはあったものの、残念ながら遂行困難と見ている。昨年度には哲学史的な仕事に主に力点が置かれたが、今年度は『「いき」の構造』の論内容に直接関連する哲学的・美学的・芸術学的な仕事を遂行する予定がある。ただし外的事情による延期の可能性などに柔軟に対応する余地を確保するよう考慮し、年度期間において可能な最大限の実績が積めるよう工夫に努める。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス禍下においていくらかの研究計画の微調整が必要となり、その影響から次年度使用額が生じたが、実施の大枠にかかわる程度ではなく、次年度に物品費等として使用する計画である。
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Research Products
(4 results)