2022 Fiscal Year Annual Research Report
三大一神教における中世法思想の比較哲学的・比較宗教学的考察:「超越」と「理性」
Project/Area Number |
20K00029
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 芳久 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50375599)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 比較哲学 / 比較宗教学 / 三大一神教 / 西洋中世哲学 / イスラーム哲学 / ユダヤ哲学 / 超越 / 理性 |
Outline of Annual Research Achievements |
別々に研究されがちな西洋中世哲学、イスラーム哲学、ユダヤ哲学を同じ土俵に乗せ、次の三つの成果を得る。第一は、思想史研究における空白部分を埋め、古代哲学からイスラーム哲学・ユダヤ哲学を経てラテン・キリスト教世界に至る哲学史の多角的な再検討を行なうという基礎的研究の遂行である。第二に、法の哲学的根拠づけという哲学の根本問題の一つに関して、比較哲学的観点から取り組む。第三に、現代の焦眉の課題である文明間対話に関して、西洋近代的な観点からのみ取り組むのではなく、共通の地平の中で文明を形成していた中世哲学の時代に着目することによって、三文明間の連続性と非連続性の詳細を明らかにし、新たな対話の可能性を見出す。即ち本研究は、哲学史的・文献学的研究、法哲学的探求、文明論的対話という相互に連関した重層的な目的を有する。 最終年度は、本研究と深く関わる2冊の単著及び1冊の共著を刊行した。 1冊目の単著は『「愛」の思想史』(NHK出版)である。古代ギリシアからアウグスティヌスを経てトマス・アクィナスに至る愛の思想を捉え直すことによって、神と人との愛の関わりという一神教思想全体に通底する発想を新たな観点から分析することができた。 2冊めの単著は『アリストテレス『ニコマコス倫理学』』(NHK出版)である。中世における三大一神教の神学においては、アリストテレスの哲学が最も大きな共通の基盤となっている。その中でも、法学のような実践的な学問においては、『ニコマコス倫理学』を押さえておくことは極めて重要である。本書の執筆を通じて、アリストテレスの実践哲学についての総合的なヴィジョンをあらためて確立することができた。 共著としては、『新しく学ぶ西洋哲学史』(ミネルヴァ書房)の「中世哲学」の部分を執筆し、本研究課題の最大の軸であるトマス・アクィナスの哲学を中世哲学全体の中に位置づける視座を確立することができた。
|