2021 Fiscal Year Research-status Report
共通感覚の公共的機能の再解釈を基盤とした「テレパシー倫理学」の構築
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20K00030
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
宮崎 裕助 専修大学, 文学部, 教授 (40509444)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テレパシー / 集団心理学 / 共通感覚 / 共感 / エンパシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の第2年度となる2021年度の研究実績は、主に以下の二つの視点から「テレパシー倫理」にとっての理論的中核ともいうべき論点を解明したことにある。
第一に、フロイトの集団心理学の問い。まず、政治哲学者エルネスト・ラクラウのポピュリズム論に注目し、指導者を伴わないような多様な集団形成の積極的な可能性をフロイト自身のテクストに読み込み、この可能性をいかに捉え直してゆくかと問うた。次に、フランスの哲学者フィリップ・ラクー=ラバルトとジャン=リュック・ナンシーの「政治的パニック」論を取り上げ、同一化による集団形成が解体するパニック的瞬間を介して、この同一化が脱同一化のプロセスに通じていかざるをえないことを検討した。彼らの問題提起は、そうした解体的契機が集団形成の本質に組み込まれていることを明らかにしたうえで、そこから出発していかに新たな集団形成へとつなげていくチャンスを見出すかについての問いかけとみなすことができる。(論文「情動の退隠──フロイトと現代ポピュリズムの問い」)
第二に、イタリアの思想家ジョルジョ・アガンベンとフランスの哲学者ジャック・デリダとの共感論の対比。アガンベンが自己と他者の分割そのものを共有する共通感覚のうちに友愛を見いだす場合に、分有された感覚の同時的な時間性が前提とされているのに対して、デリダは、言語という媒体を不可欠なものとすることで、現前しない他者、他者の不在すらも他者性の契機とするのであり、さらにいえば、自他関係を断ち切るような他者の不在をこそ友愛の可能性の条件とするのである。デリダの友愛は、隔時性ないし錯時性によって働く共感である。こうした遠隔(テレ)コミュニケーションを介したデリダの共感論は、エンパシーではなくテレパシー論として考えることができる。(学会発表「来たるべき共感の共同体──シンパシー、エンパシー、テレパシー」)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2年度は全体の研究の核となる主導的概念の練り上げることである。計画通り、共通感覚論の関連著作、ならびに20世紀の解釈の精査と検討に従事したうえで、エンパシーからテレパシーへの概念的展開の道筋をつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナの世界的な感染状況が収まっていない現在、予定していた学会が中止になるなどの、計画時には予期していない状況が発生しているが、過去2年間の実績に基づき、文献調査、論文執筆等の作業を中心に着実に推進することにより、不測の事態にも対応することにしたい。
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Research Products
(8 results)