2020 Fiscal Year Research-status Report
玄奘の思想的変貌を基準とする唯識思想のインドと中国・日本の異質性の究明
Project/Area Number |
20K00047
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐久間 秀範 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (90225839)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | インド瑜伽行唯識思想 / ヴァラビーのスティラマティ / 堅慧 / 安慧 / 中国唯識教学 / 日本法相教学 / 註釈家スティラマティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主眼である玄奘の思想的変遷について、『大唐西域記』に述べられている各地域における考古学的調査結果および美術史分野の研究成果も加えて、現在の現地の状況に照らし合わせて、記述内容が妥当なものであるかを吟味した。今回、東インド・オリッサ地方および南インド・ナーガールジュナコンダ、アマラバティに関しての現地調査の内容と『大唐西域記』の記述内容には親近性が高いことが分かる一方、西インド・グジャラート州のヴァラビーを中心とする数カ所については、『大唐西域記』の示す内容がほとんど現地の状況を反映していないことを確認した。それを踏まえて、玄奘に端を発すると伝わる中国唯識教学および日本法相教学の描く思想内容の内、註釈家安慧がヴァラビーを拠点としてナーランダーを拠点とする護法と対立する構図が、事実と異なる可能性が高いことを立証できるまでになった。ヴァラビー出土の銅板碑文に記載されたSthiramatiとサンスクリット語原典の存在する註釈家スティラマティとは別人であると結論づけられることが分かった。さらに中国唯識教学および日本法相教学が描く安慧とも符合しないことも明確になった。中国唯識教学および日本法相教学が描く安慧が誰によっていつ頃作り上げられたものか吟味して行くと、玄奘に起因すると言うよりも、彼の弟子達によって作り出されたことがかなりの精度で確定できることになった。それを吟味する中、玄奘が中国に持ち帰った思想が、玄奘の翻訳の年代を追って変遷して、次第に中国唯識教学および日本法相教学へと変異していることが徐々に分かるようになった。その成果として現在刊行を予定している玄奘フォーラムの原稿「旅する玄奘の思想的変遷」の中にある程度述べることができた。これを基盤にしてインド・中国・韓国・日本へと玄奘のもたらした思想がどのように変遷していったかを、引き続き研究して行くことにしている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者のこれまでの研究成果を踏まえて、現在の結果はおおよそ予想可能な内容であった。その上で、研究協力者との連携で、中国唯識教学および日本法相教学とにおける唯識思想が玄奘および玄奘以降の弟子達の思想的変遷に起因することついても、方向性がかなりはっきりしてきた。それは近刊予定の『玄奘フォーラム論集』(仮題)の共同執筆者でもある研究協力者達の論文にも述べられることとなった。これによって、残りの研究の期間内に、玄奘の思想内容がインドで学んだ思想内容をどのように変異させてきたかのアウトラインをある程度予測可能なものにできるとの青写真を得た。その青写真をもとに将来の研究成果の基礎を固めることへの見通しが立ってきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
現時点で得られた成果と将来に向けての青写真を基礎として、中国唯識教学の研究、韓国における唯識教学の希少な証拠となる文献の研究および日本法相教学の内容の研究を、本科研の研究協力者と連携して明確にして行き、研究代表者の研究の中心であるインド瑜伽行唯識思想との比較対照作業を進めて行く。
|
Causes of Carryover |
初年度は新型コロナの影響下で、インドの現地確認調査が全くできなかったことが主要な要因であり、同じくハンブルクやウィーン、オックスフォードなどの研究者達と対面で意見交換をする機会がなく、オンラインで研究活動をすることになったことが使用額を次年度に持ち越さざるを得なくなった主たる理由である。今年度は新型コロナの収束を待って、これまでに得られた研究成果の確認作業を、可能な限り対面で時間をかけて吟味することにしたいと思っている。
|