2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K00051
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堂山 英次郎 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (40346052)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | インドラ / リグヴェーダ / アヴェスタ / 神話 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、インドラについての最大の情報源である『リグヴェーダ』(RV)から、インドラの神話や関係する記述の読解と分析を行っ た。まず、インドラが足萎えや盲目の捨て子を救うという、他にまとまった記述の無い神話の断片を集め、その象徴性や社会的背景について考察した。この考察は2022年に出版された共著書の中に収録された。また、インドラがヴィシュヴァルーパという魔物を倒す話を軸に、インドラと神話的英雄であるトゥリタ・アープティヤとの関係性と、時代によるその変遷をたどった。それは、英雄神と罪という重要なテーマに対し大きな示唆を与えるものであった。この考察は令和5年3月に、本科研課題も共催して大阪大学で行われたワークショップにおいて発表した。 RVより後の資料では、ヤジュル・ヴェーダ散文およびブラーフマナ文献におけるインドラ神話を、上記のインドラとトゥリタ・アープティヤに関する研究を中心に精読・分析した。『アタルヴァヴェーダ』や、叙事詩やプラーナのインドラ神話については特に研究を進めなかった。また、一昨年度と同様、ゾロアスター教聖典『アヴェスタ』における魔神「ダエーワ」=インドの「デーヴァ」に対するゾロアスターの姿勢を知るべく、同文献の精読を行なった。 これまでに採取・読解したインドラ神話の内容を整理・分類し、モチーフや系統別に類型化を試みた。 数年来進行中のRVの新ドイツ語訳プロジェクトにおいて、研究代表者が大部分を翻訳したRV第6巻を含むシリーズ第3巻が出版された。多くのインドラ讃歌の訳注について、インド学者・神話学者との建設的な議論につなげたい。一方、前年度まで用意していた、ヤースカ著『ニルクタ』に見る古代インド人のインドラ観については、再々延期されていた国際サンスクリット学会が完全オンライン開催となったことを機に、発表を見送った。今後新たな発表機会を探る予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、本務校での役職就任に伴い管理運営の仕事が大幅に増えたことと、引き続きコロナウィルス感染症の影響で情報収集や学会・研究会のための移動が制限されたことが、研究がやや遅れている主な理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き、RVを始めとするサンヒター文献(韻文+散文)とブラーフマナ文献からインドラの神話や記述をなるべく多く採取・読解し、その内容の整理・分類と、モチーフや系統別の類型化を試みる。特に、前年度に扱ったインドラとトゥリタ・アープティヤの神話のように、一つの神話あるいは個々のモチーフを古い文献から時代順に追い、話の系統や変遷の仕方を明らかにする作業を続けて行いたい。それによって、インドラという神が、時代による思想、社会、生活の変化とともに如何にその性格を変えていったか(または変えなかったか)が浮かび上がると期待されるからである。前記のインドラとトゥリタ・アープティヤの神話についての研究は、より詳細かつ調査対象を拡大した形で、2023年9月にフランスで行われる国際ヴェーダ学会の場で発表を予定している。 これまで予定しながら殆ど着手できていない作業にも積極的に取り組みたい。特に前年度予定していた、シュラウタスートラを対象とした、祭式におけるインドラ儀礼の特質の調査と、叙事詩・プラーナを対象としたインドラ神話の調査には時間を取りたい。前者は、インドラが称えられる祭式の性質やその目的を見ることで、その時代のインドラの役割・位置づけを知ることにつながる。また後者は、これまでサンヒターやブラーフマナから収集・分類してきたインドラ神話やインドラの性質が、後にどのように変貌を遂げたのかを知るヒントになり、ブラフマニズムからヒンドゥーイズムへの連続と断絶という大きな流れを知ることにもつながると考えられる。 前年度発表を見送った『ニルクタ』に見るインドラの記述と当時のインドラ観についての研究には、別途発表の場を探したい。ゾロアスター教聖典『アヴェスタ』の調査は引き続き行い、合わせて、これまで手薄であった二次文献の収集と分析にもまとまった時間を取る予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス感染症の影響により、参加予定であった国内学会および参加・発表予定であった国際学会が遠隔開催になったことで、旅費、宿泊費、英文校閲費(国際学会は参加を見送ったため)等が不要になったことが一つの理由である。ただし、前年度からの繰り越し額を除けば、本年度は予定額以上を使用したことになる。これは、臨時的に国際ワークショップを開催することになったため、アルバイト謝金や、講師の旅費、宿泊費、謝金等が必要になったからである。繰り越し額の有効利用につながったと考える。 2023年にはフランスで対面開催の国際学会にエントリーしており、当該年度からの繰り越し額は、そのための旅費・宿泊費、英文校閲費等に充てる予定である。また一部海外の図書類も、流通が遅れ年度内に間に合わない恐れから発注を控えたものがある。これらも次年度に発注する予定である。
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Research Products
(5 results)