2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00052
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
辛 賢 大阪大学, 文学研究科, 講師 (70379220)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 河図洛書 / 劉牧 / 図十書九 / 宋代易学 / 象数易 / 郭彧 / 戸田豊三郎 / 朱子学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、宋代易学の一派を形成した河図洛書説について検討を行った。 河図洛書説は黄河と洛水から発生した祥瑞として伝えられ、漢代以降、河図と洛書はそれぞれ『易』の八卦と『尚書』の洪範九疇が結びつけられた。そして宋代では、五代末の道士陳摶による河図洛書説が劉牧に受け継がれ、以後、朱子学においてしきりに議論の俎上にのぼるようになった。 ところが、劉牧については判然としないところが多い。正史に伝記はなく、『宋元学案』(泰山学案「運判劉長民先生牧」)に伝が見えるが、かつて戸田豊三郎氏は、劉牧と同姓同名の人物の事績が入り交じっている可能性を指摘した。この問題は、その後長きにわたって注目されることなく曖昧にされてきたが、近年、中国の郭彧氏によって新たな考察が加えられ、極めて有意味な見解が出されたのである。郭氏の考察のなかでとりわけ注目すべき問題として挙げられるのは、『易数鉤隠図』には後世の改竄と思われる異文が混在しており、異文の多くは河図洛書に八卦の起源を求める傾向を色濃く含む内容になっている、ということである。さらに北宋末の朱震が「進周易表」に伝えるごとく、河図洛書が范諤昌から劉牧へ伝承された系譜について、范・劉の両者の事跡から歴史的事実とは認めがたいとし、劉牧は河図洛書学の系譜とは無関係であるという見解が出されたのである。郭氏の考察は、まさしく従来の定説を覆すものであり、極めて説得力の高い論証になっている。戸田・郭両氏の考察は、劉牧易の研究、さらには宋代易学研究の新たな地平を切り開く可能性を含むものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度の研究結果をもとに劉牧と河図洛書説との関わりについて検討を行い、概ね順調に進展している。昨年度は、劉牧の著述『易数鉤隠図』の内容を検討し思想的特徴を探った。その結果、劉牧の説は、大衍の数と五行と八卦とを融合した鄭玄の説を受け継ぎながら、それらを白と黒の点によって図象化を図ったものであった。しかしながら、宋代における河図洛書の学を切り開いたと知られる劉牧の著述にしては、河図洛書そのものに関する内容は非常に乏しいものであったということが問題点として残されていた。 そこで、本年度は劉牧と河図洛書説との関わりについて調査し、中国の郭彧氏の研究をはじめ、関連研究の整理を行った。その結果、劉牧と河図洛書説とは無関係であり、『易数鉤隠図』における河図洛書説は後人による改竄である可能性があるという結論となった。以上の検討結果については、紀要論文に掲載している。
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Strategy for Future Research Activity |
従来、劉牧易の研究において、真っ先に取りあげられてきた問題といえば、劉牧の「図九書十」の説が挙げられる。河図は九数、洛書は十数をあらわすとするものであるが、南宋の蔡元定が劉牧の説を覆して、河図を十数、洛書を九数とする「図十書九」の説を提唱し、朱熹が蔡説を推奨して以来、頻りに議論の俎上に上るようになった。しかし、本年度行った研究結果によれば、劉牧易は河図洛書の学と無関係であり、劉牧の本来的思想とはかけ離れて一人歩きしてきた可能性を示唆するものであった。本年度の研究結果を踏まえ、劉牧易に影響を及ぼした鄭玄易と王弼易を検討し、その思想史的流れを分析するとともに、さらに朱子学における河図洛書説の思想史的位相について再考することにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響により、オンラインによる学会開催が増え、当初予定していた旅費が未使用になったため。今後の状況に合わせて出張旅費または資料購入に充当する予定である。
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