2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K00058
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
松崎 哲之 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (40364484)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 水戸学 / 会沢正志斎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は会沢正志斎の思想を、会沢が儒教の経書をいかに解釈し受容したのか、という側面から解き明かしてくものである。 儒教は天を根本に置く思想体系であるが、天は様々に解釈されている。会沢の思想を理解するためには、まずは彼が天をどのように理解していたのか検討することが重要である。そこで、2020年度は、会沢の天の概念について、特に万物の始元の側面から検討を行った。その結果、以下のことを明らかにした。 会沢は万物の絶対的な始元を混沌としたひとつの状態である一元の気であるとし、それが太極であるとみなしていた。この考え方は始元を有とするものであり、韓康伯・孔穎達が主張した無や、朱熹が想定した観念的な理を否定するものであった。また、この会沢の一元気論は、『日本書紀』冒頭の天地開闢の物語、およびその背後にある学術思想から導き出されたものであった。 さらに、この一元気論は会沢の学問観を端的に表しているものであった。会沢にとって学問は現実に生起する諸問題を解決するためにあり、無や理の解明に没入することは、聖人の道を説く学問とはみなされなかったのである。彼は学問事業一致を掲げる弘道館教育に携わる身として、学者の目を現実へと向けさせるために、ともすれば現実から乖離し、観念の遊戯に陥る危険性を伴う無や理を排除し、天を有として解釈したのである。 以上のことは、「会沢正志斎の「天」の思想―一元気論を中心に―」(中国文化『中国文化―研究と教育-』第78号、2020)で発表した。 また、会沢は『新論』においては、天と天照大神を一体化させて「天祖」という概念を発明し、それを根拠において立論をしていている。そこで、引き続き、会沢の天の思想について、天と天照大神の関係の観点から検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はコロナウイルスの流行により、大学の授業開始の時期が大幅に遅れ、当初、大学の前期授業は、最初の7回は遠隔授業、その後は対面授業ということで開始された。はじめての遠隔授業ということで、遠隔授業の方法から勉強し、授業準備に膨大な時間をかけて、7回の遠隔授業を無事に終えることができた。ようやく、対面授業が始まったが、再びコロナウイルスが流行したため、対面授業は3回で打ち切られてしまった。そして、準備期間として1週間が設けられ、再び遠隔授業に戻ることになってしまった。このように授業の開始が遅れ、途中の混乱もあっため、前期授業は8月の末まで行われ、休むことなく後期の授業が開始されることになった。このため、前期授業期間、及び学生の夏期休業期間に行う予定であった研究は実施することができなかった。 また、後期授業はすべて遠隔授業となり、授業準備と授業後の処理のために、前期と同じく膨大な時間が費やされてしまった。学生の授業が何よりも重要なため、やむを得なかったが、研究に打ち込める時間は当初想定したものよりも、はるかに短くなってしまった。学外での調査などもコロナのため予定通り行うことができなかった。 以上の次第で、まとまってとれた研究時間は年度当初の4月と年度末の2、3月のみに限られてしまい、前年度から準備していた論文を仕上げ、さらにひとつの論文を執筆することはできたが、会沢の著作に関する訳注の作成まで手が回らず計画通りに研究を進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、会沢正志斎の儒教経典に関する書籍の解読を進めつつ、会沢の思想を解明するものである。 2020年度は、これまで解読してきた『中庸釈義』などを基本にして、会沢の天の思想について主に万物の始元の観点から検討した。 2021年度は、引き続き会沢の天の思想を神儒一致の観点から検討を進め、会沢の思想における天照大神の位置づけ、山崎闇斎の垂加神道および本居宣長の国学思想との関係などを検討していく。また、これまでに執筆した会沢および水戸学に関する論文を整理して、不足している点、再検討が必要な点などを検討する。現在のところ、徳川光圀から会沢に至るまでの水戸の学問における孝の思想の検討が必要であることが判明しているため、天の思想に引き続き、孝の思想を検討することにしたい。さらに、会沢の儒教経典に関する注釈書の訳注作成も同時に進める。2021年度は、2020年度中に行う予定であったこれまでに作成した「『中庸釋義』訳注稿」の整理を行い、『孝経考』『典謨述義』の訳注の作成を開始する予定である。 2021年度も20年度に引き続きコロナウイルスの影響のため、出張調査や学会活動などに支障が出る恐れがある。国内出張は、流行状況を見極めて実施することにしたい。海外(中国)出張は21年度は取りやめ、来年度以降、コロナウイルスが落ち着き次第、実施することにする。 21年度は、大学の授業は遠隔と対面のハイブリッドになり、今後の状況次第で授業形態が変更になる可能性もあるため、当初想定していた研究時間を確保できるか予見しがたい。昨年度の研究の遅れもあるので、状況次第では、研究期間延長も検討する。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナウイルスの流行により、授業準備とその後の処理に膨大な時間がかかり、予定通りの研究時間を確保することができなかった。そのため、予定していた物品を購入することができず、学会や調査のための出張にも行くことができなかった。また、予算申請書の作成が年度末になってしまったため、年度内に納期の予定がたたない物品もあった。さらには、当初購入予定の古書が売却されてしまっていた。これらのため、当初予定していた2020年度の経費を消費することができなかった。 本年度は昨年度購入予定であった書籍や物品を昨年度の予算で購入する予定である。また、時折、売りに出される水戸学に関する古書、特に江戸時代に出版された和書については、情報を積極的に集めて購入することにしたい。出張費については、今後のコロナの動向がつかめないため、予定がたたないというのが実情である。国内出張は、コロナが落ち着き次第、順次、出張に行く予定であるが、海外出張は中国を予定しているので、もう少し様子を見る必要がある。現状では、今年度の出張は厳しいと考えられる。海外出張に関しては、翌年以降にコロナウイルスが落ち着き次第行くことにする。
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Research Products
(1 results)