2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K00058
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
松崎 哲之 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (40364484)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 会沢正志斎 / 水戸学 / 術数学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、会沢正志斎の経学思想と術数学の関係について主に検討した。 儒教は前漢の董仲舒の献策がきっかけとなって、学問的に整備され、国家の統治理念へとなっていく。その際、儒教の正当性を担保するために利用されたのが、天と人とは同質・同類であって感応し合うという考えを基本とする天人合一思想であった。そして、この天人合一思想の理論を支えたのが、易を基本とする陰陽五行思想と自然科学が融合した術数学であり、術数学が持つ数学的な合理性によって天と人との合一性を証明しようとしたのであった。以来、儒教経典に関する学問は、天人合一思想が基本にあり、術数学はその核心にあり続けていたと考えられている。 江戸時代は朱子学が統治理念として利用されていたが、朱熹の学問も天人合一思想があり、術数学的思考によってその理論が形成されていた。朱子学を淵源とする会沢正志斎の思想も天人合一思想を基本としており、術数学が強い影響を及ぼしていたと考えられる。そこで、術数学の中核を形成している易と五行、そして自然科学に対して会沢がどのように認識していたのか検討し、彼の経学思想に術数学的思考がどのような影響を与えていたのかを考察した。 考察の結果、会沢の経学思想は儒教の伝統である天人合一が基本にあるものの、その方法は儒教経典の記載内容に基づいて解釈する文献学的アプローチに基づいており、天人合一の理論は易および孝の思想によって構築されており、五行については『書経』や『左氏伝』に記載される民用に関する解釈にのみ限定されていたこと、また、会沢の興味・関心は、主に人倫を解明し、社会の安定を目指す政治論にあり、術数学的思考によって、宇宙の構造を明らかにし、それを学問の基礎に置くことにはなく、むしろ、漢代以降発達した数理に基づいた術数学的解釈は経書に記載がないとして否定されたことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この研究は2020年度から開始されたものであるが、2020年度はコロナウイルスの影響により、すべての授業が遠隔授業となり、その準備に膨大な時間がとられ、研究に費やす時間は限られてしまい、当初予定していた『中庸釈義』訳注の整理や会沢の儒教経典に関する著作の整理を行うことはできなかった。それでも、会沢の経学思想の核となる天の思想については検討し、その成果を「続・会沢正志斎の「天」について――天と天照大神――」として『中国文化』第79号で発表することができた。 2021年度は、遠隔授業と対面授業のハイブリッドとなり、新たな授業形式を試み、2021年度ほどではないが、授業準備と後処理に費やす時間が多くなり、研究の遅れを取り戻すにはいたってはいない。しかし、2020年度よりも研究をすすめることはできた。 本研究は会沢の儒教経典に関する著作の整理を行いつつ、彼の経学思想について検討するものであるが、『中庸釈義』訳注の整理については、現在、彼の「中」の解釈に対する問題点が見つかり、それについて検討中であり、その他、彼の儒教経典解釈書である『読論日札』『読書日札』『典謨述義』『孝経考』について、現在、並列的に作業を進めている。特に『孝経考』については、ほぼ、校勘と訳出の作業を終えたところ、新たな写本が発見され、それとの校勘作業を現在進めている。 また、会沢の経学思想の検討については、研究実績の概要で示したように会沢の経学思想と術数学について検討し、その成果を「会沢正志斎の経学思想における術数学」として、『中国文化』第80号に投稿しており、おおむね順調に研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、会沢正志斎の儒教経典に関する書籍の整理解読を進めつつ、会沢の経学思想についての解明をはかるものである。 2020年度から21年度は、これまで訳注を作成してきた『中庸釈義』を基本にして、会沢の天の思想について主に万物の始元の観点から検討し、それに引き続いて、彼の天の思想を神儒一致の観点から検討を進め、会沢の思想において天と天照大神がどのように位置づけられたのかを検討した。また、新たに、会沢の経学思想において術数学がどのように位置づけられたのかという問題点が浮上し、それについての検討を行った。 今後の研究の推進方針としては、当初予定していた会沢の儒教経典に関する著作の整理と検討を行いつつ、これまでの研究によって浮かび上がった問題点について検討をしていくことを基本にしたい。 まず、ひと通りの訳注の作成を終えた『中庸釈義』であるが、その作業を進める中で浮かび上がった問題のいくつかがまだ解決できないでいる。特に「中」の解釈については、『書経』洪範の「皇極」の解釈と絡めて説いているので、会沢の『書経』に関する解釈書である『読書日札』『典謨述義』『洪範要義』の整理をしつつ、その解明をはかり、『中庸釈義』の訳注を完成させることにしたい。また、会沢の天の思想を検討していく中でも、山崎闇斎の垂加神道や本居宣長の国学などとの関係に不明な点を残している。その点についても検討をはかる。さらに、会沢の術数学について検討する中で、会沢が天人合一思想の理論的根拠に易と孝を置いていることが判明した。孝の重視は会沢の師である藤田幽谷から受け継がれたものであるが、会沢の孝の思想についても『孝経考』を整理しつつ、検討していく。 なお、2022年度は海外(中国)出張を計画していたが、中国がゼロコロナ政策を実施しているため、今年度は取りやめ、コロナウイルスが落ち着き次第、実施することにする。
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Causes of Carryover |
この研究は2020年から開始されたが、2020年度はコロナの影響で、遠隔授業となり、研究活動がほぼできなかった。そのため、2020年度は、助成金をあまり使用することはできなかった。未使用額が2021年度分に繰り越されたため、2021年度は当初予算よりも物品費、その他の費目に関しては超過して使用している。しかし、出張先で使用するために購入予定であったノートパソコンについては、出張ができなかったため、購入をしていない。それが原因のひとつになって、2020年度の物品費の繰越金をすべて使用することができなかった。また、2021年度も20年度に引き続き、コロナの影響のため、研究調査や学会に行けず、旅費や謝金については未使用のままである。これも次年度使用額が生じた理由のひとつである。
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