2020 Fiscal Year Research-status Report
The formation and circulation of knowledge about China: the roles of missionaries and Dutch sinology
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20K00062
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
新居 洋子 立教大学, 文学部, 特別研究員(日本学術振興会) (10757280)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 康煕帝遺詔の欧文翻訳と伝播 / 典礼論争 / シノロジー内外 / フランス道徳教育 / 清朝皇帝の訓諭の欧文翻訳と伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は【1】清代の在華宣教師による中国をめぐる知の形成と、【2】在華宣教師の発信した知の伝達に関する調査と分析に傾注した。 【1】については、通称『康煕帝遺詔』に関する宣教師らの報告の分析に傾注した。『康煕帝遺詔』は、18世紀の在華イエズス会士をはじめ、最終的にポンディシェリへ移り他修道会と行動をともにした元・在華イエズス会士ヴィドルーや、フランス東インド会社の漢語通訳として養成されていた現地の人々らによって、多言語にわたる多様な訳文が作られ、また出版や引用、他言語への重訳により、広くヨーロッパ内で流通した。本年度は訳文の多様性のみならず、本課題の主要な分析対象であるティツィング=クラプロート収蔵手稿群に多く残された『遺詔』における「天地宗社」の「宗」の神格化をめぐる議論に注目し、この問題が典礼論争と深く結びついており、『遺詔』に関する報告が多数流通した大きな要因がこの論争にあることを突き止めた。 この点から、在華宣教師による中国情報発信の増加、およびそれらの流通の活発化が典礼論争と強く結びついており、こうした文脈が以後のヨーロッパでの中国情報の取得および中国理解そのものに作用した可能性が、今後の検討課題に加わることとなった。 【2】に関しては、17~18世紀ヨーロッパにおける世界史の起源と文明の発展をめぐる探求、また19~20世紀ヨーロッパにおけるシノロジーの形成と展開が、在華宣教師のもたらした膨大な文献的蓄積に基礎づけられる一方、これらの文献を宣教師による独占的解釈から解き放つことによって促進されたことを明らかにした。 またシノロジーの内のみならず、その外における在華宣教師由来の知識の流通にも着目し、具体的には18世紀に在華宣教師の翻訳を通して伝わった雍正帝の賭博禁止の訓諭が、19世紀フランスにおける道徳教育書に継承、消化された事例について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの蔓延により、本年度は海外での史料調査を断念せざるを得ず、また所属大学以外の国内各機関所蔵史料や研究文献などの調査でも遅れが生じた。そのため本課題の主眼である、カトリック圏外のヨーロッパ、とくにオランダにおける中国情報の蓄積と再発信、および清末の外交官銭恂の事績の検討に関しては、次年度以降に本格化せざるを得ない。 ただし文献調査を行うことのできた立教大学や明治大学において、銭恂とヨーロッパのシノロジーとのおもな接点のひとつと推測される中国地図をめぐる情報に関しては、19世紀末~20世紀初めに王領プロイセンに伝わった清末の版本についての中文の研究文献を、また17世紀以降のオランダにおける中国研究史についても中文や英文による重要な研究文献を入手することができた。 また本研究の基礎文献となる『オランダ商館長日記』(1974-)および『平戸オランダ商館の日記』(1969-1970)も刊行分はすべて入手することができたため、すでに読解を開始している。 加えて初年度は、これまでおもな研究対象としてきた清代の在華宣教師による知の形成について総合的な観点から検討を進める計画であったため、これまでの予備調査で入手していた史料の蓄積や、フランス国立図書館ならびに台湾中央研究院歴史語言研究所など海外各機関による史料のデジタル化にも助けられ、「研究実績の概要」所載のとおり比較的早い段階で一定の成果を挙げることができた。 これらの成果の一部は満族史研究会大会での研究発表のほか、論文としてもまとめており、『ユリイカ』に掲載されたほか、2021年度刊行予定の『歴史学研究』や『中国史学』にも寄稿している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後少なくとも半年~1年間は、国内外での自由な史料調査の困難が予想される。海外調査が可能になり次第、当初の計画に沿ってオランダ、フランス、台湾、中国大陸の各機関で史料調査を行うが、それまでの期間において確実な成果を挙げるため、本研究課題も若干の計画上の変更を含まざるを得ない。 基本的には、ティツィング=クラプロート収蔵手稿群、および『オランダ商館長日記』『平戸オランダ商館の日記』をはじめ、すでに入手済の史料を中心に分析を進める。これらはいずれも大部の文献であるため、逆にこの期間を利用して丁寧に読解を行い、オランダ商館およびオランダ知識世界と在華宣教師由来の中国情報との接点を探っていく。 またヨーロッパ側史料、とくにカトリック圏外での中国情報の流通に関わる文献として、ドイツのイエズス会士によって編纂された『新しい世界の使者(Neuer-Weltbott)』(1726-1761)を新たに加える。これは世界各地で活動するイエズス会宣教師が送った報告のドイツ語版集成であり、ボドリーによるラテン語訳『遺詔』もドイツ語への重訳版が掲載された。この文献は初年度に入手できたため、読解を開始している。 ティツィング=クラプロート収蔵手稿群に含まれたヴィドルーによる『遺詔』および『元史』のフランス語訳は未公刊のため、同梱の『世宗憲皇帝(雍正)登極恩詔』などの詔勅のフランス語訳も含めて和訳し、公開することを計画している。ヴィドルー訳『遺詔』の一部は、内容の比較から、在華イエズス会士ド・マイヤによる中国年代記の第11巻に、その編纂と出版を手がけたイエズス会士グロシエによって引用されたと考えられ、その経緯についても調査する。 銭恂に関しても、その著作『中俄界約コウ注』を初年度に入手しており、これをはじめとする公刊著作を調査し、その地理知識を中心にヨーロッパからの作用について検討を進める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウィルスの蔓延により、海外での史料調査ができず、また国内での史料調査も大幅に制限されたことが最大の理由である。 使用計画としては、海外での調査が可能になり次第、フランス国立図書館および国立公文書館、オランダ王立図書館および国立公文書館、ライデン大学図書館、台湾中央研究院、故宮博物院、北京第一歴史档案館での史料調査を行うための旅費にあてる。 また国内では東洋文庫、国立公文書館、早稲田大学図書館をはじめとする関東圏の各機関のほか、天理大学図書館、京都大学各図書館、および国際日本文化研究センターにおいて、ティツィング関連の文献を中心に調査を計画しており、このための旅費としても計上している。 さらに関連する欧文、中文、和文の研究文献ならびに史料の複写あるいは購入、さらに国際誌への投稿論文および要旨のネイティブチェックの経費としてもあてる。
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Research Products
(4 results)