2022 Fiscal Year Research-status Report
The formation and circulation of knowledge about China: the roles of missionaries and Dutch sinology
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20K00062
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
新居 洋子 大東文化大学, 文学部, 准教授 (10757280)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 知の環流 / 典礼論争 / シノロジー / 金石学 / 王光祈 / クーラン |
Outline of Annual Research Achievements |
第3年度は、研究実施計画に掲げた「【1】清代の在華宣教師による、中国をめぐる知の形成」「【2】在華宣教師の発信した知の伝達」「【3】これらの知のヨーロッパ到達後における流通や重訳、再発信、およびヨーロッパにおける中国学の形成との関わり」に関しては、おもにこれまでの成果の整理と発表、「【4】ヨーロッパ中国学の中国への環流」に関しては新たな史料の発掘と分析、「【5】在華宣教師をはじめ多様な人々を経由しながら形成された「中国をめぐる知」の歴史的意義」の解明に関しては研究交流ネットワークの発足に従事した。 【1】と【2】に関しては、初年度より進めてきた『康熙帝遺詔』の欧文訳の各バージョンの比較について、とくに典礼論争で所属するイエズス会の主流派に反する立場をとったヴィドルー(Claude Visdelou)の仏語訳に焦点をあて、擡頭など現地の文書形式まで含めた解釈がいかに彼の中国儀礼観を反映しているかなどの点を明らかにした。【3】に関しては、景教碑をめぐる情報のヨーロッパでの流通から19世紀シノロジーと清朝金石学との接触までの経緯を明らかにした。【4】に関しては、日本音楽学会支部横断企画「近代日本と西洋音楽理論」第一部のパネリストとして招かれ、音楽の分野で知の還流が起こっていた可能性に着目するに至った。具体的には1930年代の王光祈の中国音楽観における変化の背景に、19世紀までのヨーロッパで主流であった、中国の音楽が和声/和音を欠いているという見方、これに対し20世紀初頭のクーラン(Maurice Courant)が朱載イクによって採譜された儀礼音楽などに和声/和音を見出そうとする態度があった可能性を指摘した。【5】に関しては、Wang Wenlu氏・殷晴氏と協力してアジア交流史研究会を発足し、関連領域の研究者との交流を通して、中国をめぐる知の歴史的位置づけについて検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は関連する新たな史料やテーマの発掘、研究成果の公表、研究交流のネットワークづくりという3つの面において、コロナ禍の沈静化および対面での研究集会の復活による人との出会いにも恵まれ、堅実に歩みを進めることができた。とくにアジア研究協会(Association for Asian Studies:AAS)大会への参加は本課題における重要な計画の1つであり、本年度、対面開催の復活したボストン大会にパネリストとして参加し、中国キリスト教のみならず日本キリシタンや蘭学の研究者たちと議論し、さまざまな視点からコメントを得、また国際的な研究発表の場で要求される論点の鮮やかさや発表手法の巧みの点での課題を認識できたことは、有益であった。 また上記の日本音楽学会支部横断企画のパネルに招かれたことにより、長らく主要テーマとしては離れていた音楽という領域に立ち返り、新たな視点から本課題の根幹である「環流」に関わる史料および研究テーマを発見することができた。 さらに近年、関連領域の研究成果を専門性の壁を越えて共有し、また日本における交流史分野の地域横断的な議論の場をつくる必要性を痛感していたことから、本課題でも、研究交流ネットワークの創成を重要な課題として掲げていた。この点で今年度秋にアジア交流史研究会を発足できたことは大きな一歩であり、国内のみならず、中国大陸や台湾、英国など海外から訪れた研究者も多く参加し、各自の研究テーマもアジアの多様な次元での交流という点で共通しつつ、中国キリスト教、日本キリシタン、東アジア国際関係、上座部仏教や媽祖信仰の伝播など多岐にわたっている。2023年4月まで、Wang Wenlu、川本佳苗、殷晴、張凱、黄イェレム、劉洋の各氏が発表を行ったほか、台湾大学の佐藤將之氏、台湾中央研究院の祝平一氏に特別講演を依頼し、毎回懇親会まで含めて白熱しており、手ごたえを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの3年間は、世界的なパンデミックの脅威下にあり、当初の計画では主要な割合を占めていた海外機関および国内の外部機関での史料調査を行うことがほぼ不可能であった。そこで次年度はまず本来の計画に立ち返り、海外および国内各機関での史料調査を進め、それらをもとに、【1】~【3】に関わる、オランダなどカトリック圏外まで含んだ中国をめぐる知の形成と流通の実態の解明に力を注ぎたい。 【4】に関しては、今年度新たに分析対象としたクーランに関する調査を継続するほか、当初から予定していた、清末にオランダへ赴いた外交官銭恂を中心に、本人の著作や関連档案の調査も継続し、知の「環流」の観点から分析を進める。 【1】~【3】にも関わるが、【5】にも関わるのが典礼論争である。これまでの本課題および海外の先行研究から、中国をめぐる知の形成と流通に深く作用したのが典礼論争であることはほぼ確実だが、近年関連史料が近年続々と影印や翻刻される一方で、その歴史的位置づけは今後取り組まれるべき研究課題といえる。典礼論争に清代の一般民衆まで含む多様な人々が関わり、多方向的な議論が交わされていたことは、近年の先行研究によっても明らかになりつつあるが、本研究課題においても、典礼論争の歴史的位置づけについて、出版史料および未公刊史料の読解と分析にもとづき明らかにしていく。【5】に関しては、上記のアジア交流史研究会を問題意識の共有の場として活用し、多様な視角をもつ参加者からの知見を得ながら、議論を練り上げたい。 上記の史料調査先としては、大英図書館、フランス国立図書館、オランダ王立図書館および国立公文書館、上海の徐家ワイ書館、東洋文庫などを予定している。 以上の調査と分析による成果は、国内外の学術誌に投稿するほか、単著としてまとめる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、前年度までに引き続き、新型コロナウィルスの蔓延により、海外での史料調査が困難となったことが大きな理由の1つである。もう1つの理由は、パネリストとして参加したAASボストン大会が2023年度末に開催されたため、これにかかる旅費の精算が次年度に持ち越しとなっていることである。次年度の使用計画は、(AASボストン大会にかかる海外旅費の精算を除くと)以下の通りである。 ①史料調査。とくに、大英図書館、フランス国立図書館、オランダ王立図書館および国立公文書館、上海の徐家ワイ蔵書楼、早稲田大学図書館、東洋文庫を予定している。これらの各機関への旅費および史料の複写費などにあてる。 ②研究交流ネットワークの構築。おもに上記のアジア交流史研究会において、国内外の研究者の招聘にかかる謝金などにあてる。 ③ネイティブチェック。研究成果を国際学会および国際学術誌に投稿することを計画しているが、その英文や中文のネイティブチェックのための費用にあてる。
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Research Products
(16 results)