2023 Fiscal Year Research-status Report
The formation and circulation of knowledge about China: the roles of missionaries and Dutch sinology
Project/Area Number |
20K00062
|
Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
新居 洋子 大東文化大学, 文学部, 准教授 (10757280)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | バタヴィア技芸科学協会 / 世界史教科書 |
Outline of Annual Research Achievements |
第4年度目にあたる23年度は、おもに「研究の目的」に挙げた【3】と【4】に関する事例を調査し、【5】にも取り組んだ。 【3】に関しては、新居が研究分担者として参加し22年度で終了した基盤研究(C)「フランス・アカデミーの総合的研究」の書籍化にあたり、オランダ植民地バタヴィアに1778年に設立されたバタヴィア技芸科学協会について調査し、協会発行のオランダ語『紀要』の読解に取り組むなかで、この協会が「北京の宣教師たち」との協力関係の構築を模索していたことが分かり、これを手掛かりとして、在華宣教師と非カトリック圏ヨーロッパとのつながりを示す記述を調査した。 さらに、在華宣教師によって中国をめぐる膨大な知がヨーロッパへ伝播し、またヨーロッパ内で流通するようになった大きな契機と考えられる典礼論争が、本邦の明治時代以来の東洋史・世界史教育のなかでいかに取り扱われ、とくに教科書や概説書等で流布している「康熙帝がイエズス会以外の修道会の宣教を禁止した」なる認識が、史料や本邦における代表的な先行研究と異なっているにも関わらず、いかにして現在まで継承されてきたのかについて検証を行った。その結果は大東文化大学東洋研究所共同研究班の研究会でも発表した。 また【4】に関しては、昨年度パネリストとして参加した「近代日本と西洋音楽理論」シンポジウムの書籍化が進められることになり、改めて20世紀初頭にクーラン(Maurice Courant)がフランス語で著した中国音楽研究書を調査し直した。そして彼がとりわけ朱載イク『楽律全書』の研究を通して中国音楽の多声性と独自性をいかに示そうとしたのか、そしてクーラン著がいかに1930年代における王光祈の中国音楽観の変化に作用したのかについて検討し、草稿を仕上げた。 【5】に関しては、22年度に立ち上げたアジア交流史研究会を継続し、充実した議論を行うことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
23年度は、史料の発掘という点では少なからぬ収穫があったが、もともとコロナ禍明けに予定していた海外での史料調査を行うことができなかった。そのおもな理由として、8~9月に調査を予定していたが、急遽7月末に手術を受けることになり、術後の体調回復のためもあって9月の秋学期開始までに渡航がかなわかったこと、また新居が介護にあたっている高齢家族の生活環境が大きく変化したため、その対応に多くの時間と労力を割かざるを得なかったことという2点が挙げられる。 しかし年度の後半では、これまでの研究の成果を整理して論文に仕上げることができただけでなく、そのなかで新たにさまざまな関連史料を発見することもできた。とくにオランダ語史料は本研究課題によって核心ともいえるもので、その読解に大変苦労しつつも集中して取り組むことができたのは前進である。 また本研究課題を進めるなかで典礼論争の歴史的重要性をますます強く感じているが、本邦の世界史教科書および各種概説書における「典礼問題」関連の叙述についてかねてより抱いていた疑問に正面から取り組み、関連史料を1つ1つ見直したうえで問題化できたことは、単に本研究課題の進展という面のみならず、研究成果の社会への還元という面でも意義があると考えている。 さらに22年度に立ち上げたアジア交流史研究会もほぼ毎月1回開催を続けることができ、韓喬宇、劉洋、中越亜理紗、兪昕ブン、韓朝建、木下慎梧、砂田恭佑、鎌田満希、呉政緯、呂雅瓊の各氏に発表を依頼し、充実した議論を行うことができた。 以上の進捗状況を総合して「やや遅れている」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる24年度は、以下の点を中心に研究を進める。 ①これまでの研究の結果を活字化する。これに関しては、上述した「近代日本と西洋音楽理論」企画(代表:西田紘子・仲辻真帆の両氏)、「フランス・アカデミー」科研(代表:栗田秀法氏)の2企画の書籍化が進められ、新居も執筆参加しているほか、23年度に口頭発表した「教科書等における『典礼問題』観」も、24年度に『山川歴史PRESS』と『東洋研究』という2つの媒体に分けて活字化する予定である。加えて英語での活字化にも向けて動いている。 ②コロナ禍および上述の事情により、これまで行うことができなかった海外での史料調査を行う。ハーグ国立公文書館、オランダ王立図書館、ライデン大学図書館などのオランダ各機関、台湾中央研究院、故宮博物院などの台湾各機関を中心に、18世紀から20世紀初頭までのヨーロッパ中国学の形成と展開、および同時代の渡欧中国人に関する史料調査を行う。 ③アジア交流史研究会を継続する。この研究会を立ち上げられたことは、本研究課題の大きな成果である。小規模ながら、これまでほぼ毎月1回の開催が定着し、国内と海外の若手研究者の研究交流の場としての機能を発揮していると感じている。研究テーマの近い者同士が切磋琢磨するのと同時に、研究分野の違いを越えて大きな問題意識を共有し、将来の共同研究の構想を育てることができる場として、今後も継続していきたい。
|
Causes of Carryover |
もっとも大きな理由は、2022年度頃まで続いたコロナ禍である。これによって2022年度までに予定していた海外での史料調査ができず、その分の旅費が本年度まで持ち越されていた。加えて、23年度に予定していた海外での史料調査もできなかった。23年度に海外渡航できなかった理由は、「今後の研究の推進方策」欄にも書いたように、もともと調査を予定していた夏に手術を受けることになり、術後も数ヵ月間の安静を必要としたのと、高齢家族の介護に関連する事案の対応に多くの時間と労力を割かざるを得なかったためである。24年度の使用計画は以下の通りである。 ①ハーグ国立公文書館、オランダ王立図書館、ライデン大学図書館などのオランダ各機関、台湾中央研究院、故宮博物院などの台湾各機関を中心に訪問し、18世紀から20世紀初頭までのヨーロッパ中国学の形成と展開、および同時代の渡欧中国人に関する史料調査を行うための旅費にあてる。 ②引き続きアジア交流史研究会を毎月1回程度開催し、そのための講演謝金にあてる。 ③英語での成果発表を予定しており、そのためのネイティブチェックにあてる。
|