2020 Fiscal Year Research-status Report
エラノス会議における聖概念と心理学的治癒の連結に関する宗教学的研究
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20K00074
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Research Institution | Hokkaido University of Science |
Principal Investigator |
奥山 史亮 北海道科学大学, 全学共通教育部, 講師 (10632218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江川 純一 明治学院大学, 国際学部, 研究員 (40636693)
藁科 智恵 日本大学, 国際関係学部, 助教 (60868016)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 聖なるもの / 精神分析 / 分析心理学 / 近代ユダヤ思想 / ファシズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度において得られた研究成果は以下のとおりである。 (1)ユダヤ・ルネサンスとの関係性:エラノス会議に参加したユダヤ人研究者、とりわけエーリッヒ・ノイマンとカール・グスタフ・ユングのユダヤ性をめぐる議論の整理作業を開始した。ノイマンはユング派の分析家であり、『意識の起源史』『グレートマザー』等の著者として知られているが、マルティン・ブーバーやゲルショム・ショーレムと深いかかわりを有した「シオニスト」でもあった。ユングが『精神療法とその境界領域中央雑誌』1934年5月においてナチズムを支持したと批判されることになる文書を掲載した際、ノイマンはその真意を問う書簡をユングに送り、議論を展開していた。これらの書簡資料などを整理しながら、エラノス会議におけるユダヤ性をめぐる議論とシオニズム、分析心理学、および宗教学理論が如何に交差したのかを検討中である。 (2)アスコーナのコロニー文化との関係性:オットー・グロースがアスコーナにおいて展開していた精神分析の特質、およびユングとの影響関係を特定する作業を開始した。グロースは、ブルクヘルツリ病院に勤務していたユングに多大な影響を与え、両者の関係性は分析心理学理論の初期形成における重要な要因であるが、エラノス会議の創設および運営においてもその連続性が確認されるという仮説を構築している。 (3)ファシズムとの関係性:エラノス会議とイタリア・ファシズムとの関係性を検討する作業を開始した。ユングの民族主義宗教運動へのかかわり、およびエラノス会議に参加した研究者たちが有した「民族」概念を整理し、「民族」「宗教」をめぐるファシズムとの関係性を調査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの成果は本研究の目的に対し、以下の理由から当初の計画を大きく変更することなく次年度の研究計画に着手できるものと判断する。ただし、後述するよう、新型コロナウイルスの感染拡大が今後本研究の実施においても影響する可能性が考えられる。 (1)ユダヤ・ルネサンスとの関係性:ノイマンとユングの往復書簡や関係資料は、すでに入手済みのものが多く、その読解と分析に力点を置き、研究を実施することができた。エラノス会議に参加したユダヤ人研究者に関する資料についても、入手済みのものから分析を開始し、次年度の研究計画を進めることが可能な状況にある。(2)アスコーナのコロニー文化との関係性:オットー・グロースに関する資料は概ね収集整理を予定通り進められており、次年度はその分析結果を踏まえた成果の発表を計画している。(3)ファシズムとの関係性:エラノス会議における「民族」概念の整理を目的として資料の収集を実施中であり、次年度はその分析に着手する予定である。 上記のとおり研究成果の進捗として「遅滞」には該当せず、「順調な進展」と判断した。ただし既述のとおり、今後の資料収集は海外における実施が不可欠になることが想定され、新型コロナウイルスの感染状況によっては、研究計画の一部を変更せざるを得ない場合が予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題について今後は以下の点を中心に研究を推進する計画である。 (1)本年度の研究成果に基づきながら、エラノス会議に参加した研究者たちが構想した「民族」「宗教」「聖なるもの」等諸概念の特質を把握し、近代ユダヤ運動やファシズム、ユートピア思想、生活改革運動との関連性を中心に考察する。 (2)エラノス会議は、分析心理学や宗教学の研究者たちが研究成果の発表を目的に集った学術的場であったが、新たな「民族」「宗教」「心理」概念の形成及びその流布を目指した宗教刷新運動という側面も有していたと考えられる。そのような宗教刷新運動としてのエラノス会議が宗教学と交差した実態とその歴史的コンテキストを分析し、宗教学史の再叙述を目的とする。
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Causes of Carryover |
既述のとおり、本研究は概ね予定どおり進捗しているが、新型コロナウイルス感染拡大の影響に対応しなければならない局面があった。さらに次年度においても、同様の理由により、資料の収集調査にかかわる「旅費」の支出に変更が生じる可能性が予想される。その場合は、「物品」として入手可能な資料へ収集の力点を移すことで対応する。 また学会・研究会での研究報告にかかわる「旅費」についても、リモートの導入により変更が生じる可能性が予測される。そのため、リモート対応のためのPC周辺機器、文献資料の購入として支出を増額することで対応したい。
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Research Products
(7 results)