2021 Fiscal Year Research-status Report
エラノス会議における聖概念と心理学的治癒の連結に関する宗教学的研究
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20K00074
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Research Institution | Hokkaido University of Science |
Principal Investigator |
奥山 史亮 北海道科学大学, 全学共通教育部, 准教授 (10632218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江川 純一 明治学院大学, 国際学部, 研究員 (40636693)
藁科 智恵 日本大学, 国際関係学部, 助教 (60868016)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 聖なるもの / ファシズム / ナショナリズム / 分析心理学 / 精神分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度において得られた研究成果は以下のとおりである。 (1)ユングの分析心理学とナショナリズムの関係性:エラノスの運営における中心人物であったユングが、分析心理学の理論を形成していく過程で、とりわけアルケタイプ(元型)概念と民族概念を連関するものとして位置付けていたことに着目した。1920、30年代のユングは、ドイツ信仰運動を主導していたW・ハウアーと協働しながら、ナチズムが流行する心理的メカニズム、それらのもとで群集が帯びる攻撃性の原因を分析するセミナーを行なっていた。そして、ドイツ人に特有の心理であるヴォータン的元型を意識領域に統合することができれば、ナチズム下の群集の行動に認められる破壊衝動、無秩序傾向を制御し、現代社会を刷新することができると主張していた。このようなユングのアルケタイプ論、現代社会批判は、エラノスにおいて他の論者たちと共有され、基層的な価値規範となっていた可能性が想定される。ユングと他のエラノス論者の間において、民族やナショナリズム、心理に関してどのような議論が交わされていたのか、分析を継続している。 (2)O・グロースとユングの思想的連関:フロイトのもとで精神分析を学び、アスコーナのコロニーにおいて中心的な役割を果たしていたグロースからユングは着想を得ることにより、母権制やニーチェ思想を心理学に統合することを試みるに至ったという仮説を検証している。書簡や診察記録などの資料を分析中である。 (3)イタリア宗教研究とエラノスの関係性:イタリアにおける宗教史学、およびファシズムとエラノスの関係性を検討する作業を開始した。とりわけR・ペッタッツォーニとM・エリアーデがエラノスに参加するに至った歴史的コンテクストを分析中である。 上記について、日本宗教学会第80回学術大会においてパネル「エラノスという交差点―「宗教学」の形成史的再検討―」を企画し、成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの成果は本研究の目的に対し、以下の理由から当初の計画を大きく変更することなく次年度の研究計画に着手できるものと判断する。ただし、後述するよう、新型コロナウイルスの感染拡大が今後も本研究の実施において影響をおよぼす可能性が想定される。 (1)ユングの分析心理学とナショナリズムの関係性:関係資料はすでに収集済みのものが多くあり、その読解と分析整理に力点を置いて研究を実施することができた。エラノス会議の論者とユングの関係性についても、資料を収集済みのものから分析を開始し、次年度の研究計画につなげることが可能な状況にある。(2)オットー・グロースとユングの思想的連関:グロースとユングの接点に関する資料は概ね収集整理を予定どおり進められており、次年度にその分析結果を踏まえた成果を発表できる状況にある。(3)イタリア宗教研究とエラノスの関係性:ペッタッツォーニとエリアーデの交友、エラノスにかかわったコンテクストに関する資料として、両者の往復書簡の分析に着手しており、その結果を発表する準備を進めている。 上記のとおり研究結果の進捗として「遅滞」には該当せず、「順調な進展」と判断した。ただし既述のとおり、今後の資料収集は海外における実施が必要になることが想定され、新型コロナウイルスの感染状況によっては、研究計画の一部を変更せざるを得ない場合が想定される。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題について今後は以下の2点を中心に研究を推進する計画である。 (1)本年度の研究計画に基づきながら、エラノス会議に参加した論者たちが構想した「民族」「人種」「宗教」「聖なるもの」等諸概念の特質を把握し、ナショナリズムやファシズム、ユートピア思想、生活改革運動との関連性を中心に考察する。 (2)エラノス会議は諸領域の研究者たちが研究成果の発表を目的に集った学術的場であったが、各地で展開していた「宗教」「民族」「心理」概念を持ち寄り、それらを分析心理学の理論と混交し、つくりなおした場所でもあった。そのようなエラノスと宗教学が交差した実態とその歴史的コンテキストを分析し、宗教史学の再叙述を目的とする。
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Causes of Carryover |
既述のとおり、本研究は概ね予定どおり進捗しているが、新型コロナウイルス感染拡大の影響に対応しなければならない局面があった。さらに次年度においても、新型コロナウイルスの感染が収束しつつあるといえども、本年度と同様の理由によって資料の収集調査にかかわる「旅費」の支出に変更が生じる可能性が予想される。その場合は、「物品」として入手可能な資料へ収集の力点を移すことで対応を試みる。 また学会・研究会での研究報告にかかわる「旅費」についても、リモートの導入により変更が生じる可能性が予測される。そのため、リモート対応のためのPC周辺機器、書籍資料購入のとして支出を増額することで対応したい。
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Research Products
(8 results)