2021 Fiscal Year Research-status Report
維新期における東本願寺の破邪論とキリシタン―樋口龍温の未公開史料の分析と公開―
Project/Area Number |
20K00082
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
狭間 芳樹 大谷大学, 真宗総合研究所, 特別研究員 (80588046)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 樋口龍温 / 安藤劉太郎 / 関信三 / 松本白華 / キリシタン / 護法場 / 東本願寺 / 破邪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、幕末維新期の仏教界において、当時としてはきわめて特異なキリスト教研究をおこなった樋口龍温(1800-1885)が住職を務めた真宗大谷派の圓光寺(京都市)で発見された未公開史料の分析と公開とを課題としており、2021年度は、主として樋口に宛てられた書簡類の整理をおこなうとともに、それらの翻刻と分析とを進めた。 翻刻に関しては、研究協力者として東舘紹見氏(大谷大学教授)、松金直美氏(真宗大谷派教学研究所研究員、大谷大学非常勤講師)、下村優佳氏(大谷大学大学院)、メナチェ・アンドレス氏(京都大学大学院)らを迎えて2020年度に発足させた翻刻のための研究会を毎月1度のペースで定期的に実施した。その際、東舘氏からは、当該期における東本願寺内の学寮の動向など、本研究に求められるさまざまな有益な教示を受けることにより、精緻な翻刻作業が進められた。また、分析に関しては、開国にともないキリスト教や西洋の自然科学などが流入するなか、国学者・儒学者らによって主唱された廃仏論が激化する時代情況において、樋口が「外学」、すなわち仏教以外の学問をも広く学ぶ意義を、つよく説くに至った背景などが明らかになりつつある。 かたや樋口のもとで宗学や外学、キリスト教を学んだ破邪僧の動向に関する調査については、新型コロナウィルスの蔓延が収まらないことから、新たな史料の調査・収集が必ずしも計画通りに進まなかった面がある。しかし、オンラインでの閲覧が可能なものや、本研究開始以前に準備、収集していた史料群をもとに、幕末の長崎で露見し捕縛された潜伏キリシタンに対し、東本願寺の僧侶が彼らに棄教を促す説諭を担った事例の研究などを通して、キリスト教諜者として居留地で活動したことを分析し、その解明を進めた。なお、さらなる分析を進める目的から、収集済み史料のデジタルデータを暫定的に資料集としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、史料の所蔵先に赴くといった出張をともなう現地での調査については、そのすべてを計画通りにおこなうことは叶わなかったものの、当初、そうした調査に費やす予定であった時間を、すでに収集済みの史料を分析するために用いた結果、本研究を進めることができた。 研究会としては、樋口龍温の未公開史料の翻刻を主としたもののほか、内藤幹夫氏(前千葉県文書館)らキリシタン研究者と、日本で初めて開設された幼稚園の監事(園長)を務めたことで知られる関信三(1843-1880)が東本願寺の命を受け、安藤劉太郎という名前でキリスト教諜者として活動した事例などの分析をおこない、維新期真宗僧侶の破邪論理解や、彼らが対峙した潜伏キリシタンとの関わりといった破邪僧の動向についての研究会や意見交換会を、オンライン方式により、おおよそ隔週に一度のペースで定期的におこなった。なお、こうした研究会は、次年度に開催を企図している公開シンポジウムの準備を担うものでもある。また、2021年度におこなう予定であった課題のひとつ、松本白華(1838-1926)に関する調査は、次年度に持ち越さざるをえなくなったが、松本の遺した「白華備忘録」「白華航海録」といった史料に関する研究会をオンライン形式で実施し、課題を推進した。 以上の成果は、日本思想史学会2021年度大会での発表(「安藤劉太郎とキリスト教―樋口龍温の思想的影響をめぐって―」)をはじめ、宗教民俗の会(第184回例会)などで発表したほか、それら成果の一端を、研究者以外にもひろく公表する目的から、東本願寺における一般聴衆向けの講演などもおこなった。したがって、前年度の遅れが影響し、やや遅れていることは否めないとはいえ、進捗状況としては、おおむね順調に進んだといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の精査を目的とした研究会を引きつづき定期的に開催することにより、そこで明らかになった成果を学会等で報告し、学術論文として公表する。 また、新型コロナウィルスの蔓延が収束しないなか、ここまで滞っている長崎歴史文化博物館(長崎市)ならびに西南学院大学博物館(福岡市)での調査を実施し、幕末維新期に各地へ流配された潜伏キリシタンに棄教を迫る説諭を担った真宗破邪僧の様子を窺い知ることができる史料の収集をおこない、これまでの遅れを可能なかぎり取り戻しながら研究を推進したい。 キリスト教史学会や日本思想史学会、「アジア・キリスト教・多元性」研究会などで、分析結果を発表するほか、最終年度にあたり、研究成果全体の報告を目的としたシンポジウムを開催するとともに、本研究の主課題である樋口龍温にまつわる未公開史料の公開(書籍としての出版)をおこなうことを予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、2021年度までに実施できなかった史料所蔵先へ赴く調査・出張にまつわる助成金を次年度に使用することを計画している。
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Research Products
(6 results)