2022 Fiscal Year Research-status Report
Geneology of Ma'aseh Bereshit -- Integral Resarch on the Freedom and the Idolatry in theJudaism
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20K00083
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 教授 (60399045)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自由 / 巨人 / 偶像 / 律法 / 穢れ / 律法主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、ユダヤ教の「自由」に関する側面では、「自由」の対極にあると考えられがちな「律法主義」、中でも清浄規定について考察し、また「偶像」については、「巨人」像、ゴーレム像の精査を中心として研究を進めた。 1.「律法主義」について:ラビ・ユダヤ教時代から信仰生活の中心に据えられてきた「律法主義」はえてして、形式主義として他者からの批判を浴びてきた。同時に、近代に成立した科学的ユダヤ学自身も、「律法主義」を倫理や道徳性と読み替えることで評価をし、「律法主義」それ自体を評価するわけではなかった。「穢れ」規定の扱い方についても同様の傾向が読み取れる。ユダヤ教内で規定される様々な「穢れ」規定は、儀礼的穢れと道徳的穢れに大別されるが、近代に成立したユダヤ学が扱ってきたのは主として道徳的穢れであった。そして、「穢れ」規定の存在を、「罪」概念と結びつけ、贖罪としての「穢れ」規定として読み替えてきたが、自らの詳細な穢れ規定の律法主義的部分を直接評価しているとは言えない。むしろ「律法主義」の意義は、全ての人間、事柄、モノであれ道徳であれ、同じ次元で議論するところにあるのではないかと考えた。 2.巨人、ゴーレム像について:昨年度開催したシンポジウム「巨人の場(トポス)」をプロシーディングスとしてまとめるために、発表をもとに、さらに、ユダヤ教伝統における「巨人」ゴーレムを精査した。これは、研究題の「偶像」に相当する。ユダヤ教の伝統では、ヘブライ語聖書内の様々な用語で語られる「巨人」を一つの用語(ギブラッヤ)に集約する傾向がある。それによって、「巨人」の多層性を一元化しようとしていると考えられる。他方で、カバラーの伝統では「ゴーレム」というモチーフの中で再生しているのではないかと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ユダヤ教の清浄規定について論考をまとめ、学術誌に掲載されたこと、また昨年度のシンポジウムを報告書として将来に残る形で結実することができた点で、計画以上に進展している。 特に、穢れ規定について論考をまとめる過程で、これまでの穢れ規定の研究史上の問題だけでなく、「律法」に対するユダヤ学のこれまでのアプローチの概要をまとめ、ユダヤ学自身の律法主義へのアプローチの問題点が把握できたことは、今後の研究の発展の基盤になる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎えるために、ユダヤ教における「自由」の対極としての「偶像崇拝」像を明らかにする。奇しくもこの数か月イスラエルでは、現政権ナタニヤフの最高裁判所人事介入に反対し、「自由」と「デモクラシー」を守るデモが全国的に展開し、激化している。他方で、宗教的グループはイスラエルの拠り所としての宗教性の維持のために、反デモ運動を展開している。「自由」と「デモクラシー」と「ユダヤ性」の共存は、近現代ユダヤ社会の喫緊の課題であろう。そこで、「自由」「デモクラシー」観についての直近の言説を広く収集しつつ、今日のユダヤ教のベースとなるラビ・ユダヤ教、学術的ユダヤ教研究の礎となった近代ユダヤ学、それぞれにおける「自由」観と「自由」に対峙する概念-「偶像崇拝」の関係の解明に注力する。 また、通常「自由」を阻害すると考えられ、またユダヤ教批判の中心にある「律法主義」について、現代イスラエル社会での言説を広く収集しながら考察を進めていく。「律法」こそ「自由」をもたらすという概念がすでに指摘されているが、「自由」を阻む「偶像崇拝」についての言説を、ラビ・ユダヤ教時代から近現代に至るまで広く収集し、分析する。
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Causes of Carryover |
イスラエルに渡航し、資料収集、海外の研究者との研究打ち合わせ、知見の交換をする予定であったが、2022年度前半はコロナ感染の心配もあり、また2022年度後半は、所属機関の諸業務の都合で執行することができなかったため。2023年度中に、コロナ感染の状況が確実に落ち着くのであれば、イスラエルに渡航し、資料収集と専門研究者ととの知見の交換するために使用する。渡航が難しい場合には、国内での研究を効率よく進めるための資料、機材の充実、人件費として使用する。
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