2022 Fiscal Year Research-status Report
the Bible as the voice of God according to the Cappadocian fathers
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20K00087
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
土井 健司 関西学院大学, 神学部, 教授 (70242998)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 声 / 神の声 / ニュッサのグレゴリオス / 『雅歌講話』 / エペクタシス |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度まででカッパドキア教父における「神の声」(テイア・フォーネー)という概念についてその用例と用法について研究を実施したが、今年度は研究テーマを拡大して広く「フォーネー」(声・音)という概念をニュッサのグレゴリオスについて研究を実施することにした。ただその用例数はTLGを検索すると1018箇所もあるということなので、対象著作を限定することにして、主要著作の一つである『雅歌講話』について研究を遂行した。 TLGを使って調べると『雅歌講話』全体でフォーネーの用例数は163例見いだされる。これらを一つひとつ確認し、ある場合はその意味を、ときに文脈のなかでの用法を確認していった。その結果は以下となる。 1)『雅歌講話』においては、直接的、間接的、積極的、消極的など多様な仕方ではあるが、「フォーネー」はすべて聖書と関連付けて用いられている。ここから、「声の神学」と呼ぶべき思想が存在するのではとの予測が成り立つ。 2)「声の神学」として具体的に以下が確認された。①旧約の預言者は神の「声」として、新約における御言葉の受肉と対比的にとらえられている。②伝道者という人間の「声」を神は用いる。③声、とくに神の声には「力」(デュナミス)がある。④「声」は神に向かった不断の進行、グレゴリオスの根本思想であるエペクタシス論にかかわる。つまり神の本質、その「御顔」を観ること、捉えることはできないとしても、その「声」(聖書の言葉)に導かれて止まることなく神に向かって前進するという。 以上の結果を得て、とくにエペクタシス論との関連から、『モーセの生涯』におけるフォーネーの用例と用法の研究に進む必要がでてきた。最終年度の前半期はこの研究を実施していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請研究の後半(2022年度と2023年度)は、『雅歌講話』を対象とする予定であったが、具体的に「フォーネー」の用例全体を調査することができた。「神の声」(テイア・フォーネー」の用例に限定して研究した結果と比べると、「神の声」という概念だけでなく、もっと広く「フォーネー」を調査することで、そもそもニュッサのグレゴリオスが「声の神学」というべきものを構想していたのではないかとの予測が得られた。これは研究当初の目論見を超える成果だと言える。 なおこの研究は、「ニュッサのグレゴリオスの『雅歌講話』における「声」の神学」と題して、京都大学キリスト教学会編『キリスト教学研究』に投稿し、採択が決まっている。目下(23年5月)印刷中である。 予定ではカッパドキア教父のうち、バシレイオスとナジアンゾスのグレゴリオスについてもそれぞれの雅歌の解釈を考察するものであったが、ニュサのグレゴリオスと異なって『雅歌講話』といった著作がなく、それぞれの著作全体からテクストを選定する必要があり、これは23年度前半期の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度までの研究実績を受けて、今後の研究の方向性は、「神の声」だけでなく、何か「声の神学」と呼ぶべきものがどのように構想されているのかを様々に検討することが必要となろう。とは言え最終年となっているので、研究対象を『モーセの生涯』に限定して遂行してみたい。この著作は『雅歌講話』と並んでグレゴリオス晩年の著作とされており、もし「声の神学」をグレゴリオスが構想していたとすれば、当然この著作においても何かしらそれが確認されるはずだからである。 もう一つはバシレイオス、ナジアンゾスのグレゴリオスについてそれぞれの雅歌の解釈を確認し、「フォーネー」について何か見るべき思想があるのかどうかを確認、考察したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による種々制限がある中で、研究旅費の執行が滞ったことが第一の理由となるが、他に書籍の購入、文献収集についても思うようには進まなかった。 23年度は、予定する学会発表のため東京への旅費、また資料収集のための旅費(東京練馬にあるイエズス会図書館)、また研究をまとめるべくノート型パソコンやディスプレイなど必要に応じでデバイスの購入に充てたい。
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