2022 Fiscal Year Research-status Report
1920-1930年代植民地台湾におけるアジア共同体認識の変容
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20K00092
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
許 時嘉 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (10709158)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | タゴール / 辜鴻銘 / アジア連盟論 / 日華親善 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、排日移民法発布後、日本国内の世論変化をアジア人哲学者の双璧と呼ばれるタゴールと辜鴻銘の来日と合わせて考察を行った。1924年、アメリカ排日移民法案の衝撃を受け、日本国内において日華親善論とアジア連盟論が急浮上し、白人と黄色人種との対決の不可避やアジア民族全体のしかるべき姿が喧伝されるようになっていた。その最中、アジア人哲学者の双璧と呼ばれるタゴールと辜鴻銘が相次ぎ日本を訪れ、盛大な歓迎を受けた。ところが、タゴール・辜鴻銘の訪日期間中の講演内容を当時の日本の反響と照らし合わせてみると、この二人の理念は歓迎したはずの日本人に皮相的に捉えられている場合が多かった。彼らの言論が当時の日本の言論界のそれと時に深く結びつき、時に乖離するように見えるのは、どのような思想的背景と関わっているのだろうか。 以上の問題意識に基づき、1924年タゴールと辜鴻銘の来日時の講演内容とその反響を分析し、以下の内容を明らかにした。二人の論の矛先は共に西洋文明に向けられるのだが、それぞれの論点は、とりわけ人民と国家との結合方法をめぐって大きな違いを示している。タゴールが近代国民国家体制から完全に解放された人民像を目指すのに対し、辜はカリスマ的支配を信奉する者として、君主との紐帯関係を基に築き上げられた、伝統儒教体制における人民の理想像を堅持しようとする。辜の思想は人民と上位者(国家君主)との結合関係を必然視する姿勢ゆえに、タゴールと比較して、天皇制国家であり、教育勅語によって儒教的教えを維持した日本人には受け入れやすい論説だったのである。 今年度に口頭発表3件を行ない、論文2本を国際学術誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国境再開により海外の資料調査が可能になり、また学会の対面開催も増え、実質的な学術交流が従来通り行われた。予定通り研究を進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は1927年以降の資料調査を継続し、台灣議会設置請願運動の穏健派と左派のアジア認識の分岐を明らかにしていく。その具体例として、『台湾民報』の編集者だった王敏川を取り上げたい。王敏川は早稲田大学出身で、1923年から『台湾民報』の編集に携わり、1927年左派右派の対立による台湾文化協会の分裂を契機として、右派の編集者群から離脱して左派陣営に転じた。元から共産主義者だったと後に研究者は断定しているが、1923年ー1927年の彼は右派の蒋渭水陣営とともに日華親善論およびアジア連盟論の結成を積極的に鼓吹し、日本国内の新聞紙、総合誌の記事を中国語に翻訳することに精力的で、日本からの情報輸入に大きく貢献した。彼の翻訳活動は当時の台湾言論界を支えていたが、その活動の全貌はいまだに解明されていない。よって、来年度は1923年から1927年までの彼の翻訳記事を精査し、初期から1927年前後までの翻訳内容の傾向を明らかにすると共に、『台湾民報』(1923年ー1927年の文協左右分裂前後まで)における日本側情報の受容ルートと編集の仕組みを可能な限り可視化したい。そこから、王の思想転向の背景と理由を探りたい。
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