2023 Fiscal Year Research-status Report
20世紀後半フランスのフロイト派における構造概念の用法と応用精神分析の展開の解明
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20K00095
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 朋子 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (70613876)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | デリダ / フェレンツィ / フランス / フロイト / メランコリー / ラカン |
Outline of Annual Research Achievements |
フランスの哲学者ジャック・デリダによる1975-76年の講義録『生死』をめぐるワークショップを2023年4月に開催し(脱構築研究会との共催)、フロイトの『快原理の彼岸』(1920年)のデリダによる読解について発表した。発表では、「緊縛構造的〔stricturale〕経済」というデリダの造語が、一方ではテーゼの確立を目指す思考としての哲学、他方では客観的な立場から仮説の措定と検証を繰り返す営みとしての科学、それぞれとの差異において、精神分析的な思考の特徴を指し示すものであることを明確にした。2024年2月の発表では、2000年代のデリダが「アリバイなし」という言葉によってその特徴の評価を広い文脈において敷衍し、とくに死刑や主権等の問題をめぐる考察にとっての意義において強調したことを指摘した。また2023年秋以降、心に関する科学の成立の可否をめぐる議論の歴史を整理し、そこでの重要な論点の一つが「経験」概念にあるとする仮説を立てた上で、20世紀後半のフランスにおけるフロイト派の活動をその歴史のなかに位置づける作業に取り組んだ。 そのほか、所属する日本ラカン協会や日仏哲学会の企画等に応じて、ジャック・ラカンが1949年に発表した鏡像段階論の注釈やメランコリーの歴史(とくにフロイトがもたらした観点とその思想史的な意義)の概観、フロイトとその弟子シャーンドル・フェレンツィのトラウマ論および獲得形質遺伝の観点の検討を行い、それらの一部を論文化する作業を進めた。これらの成果は2024年度に行うニコラ・アブラハムとマリア・トロック研究でも生かされる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画作成時に予定されていなかったカリキュラム改革を含む教育関連業務の増加と能登半島地震の影響への対応とが主な原因となって、研究時間が圧迫されたため。なお当初予定では2023年度が最終年度であったが、研究の遅れに伴い期間延長を申請した。
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Strategy for Future Research Activity |
アンドレ・グリーンの身体像論やニコラ・アブラハムとマリア・トロックの「世代横断的」と呼ばれる観点における情動の問題の所在について研究を進める。当初の計画では「構造」概念の用法について、20世紀後半フランスのフロイト派と、同時代の哲学者を中心とする人文学者や精神分析の他学派の比較を行う予定だったが、研究の進展に伴いそれを修正し、18世紀以降の心の学問的探究の歴史というより広い文脈のなかで同フロイト派の特徴を明確化するという方針のもとで研究を推進する。
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Causes of Carryover |
2020年度に開始した本研究は新型コロナ感染症流行の影響を直接的、間接的に大きく受けて研究に遅れが生じた。また、予定していた海外での研究滞在や国内学会への参加を取りやめたり、オンラインその他の手段に切り替えたりすることがしばしばあった。そのため開始年度当初から2023年度まで研究経費を翌年度に繰り越すことが続き、2024年度の使用額が生じた。 2024年度の計画としては海外での研究滞在と1970年代以降フランスで出版された精神分析の専門誌を中心とする資料収集のための費用に使用することを予定している。
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