2021 Fiscal Year Research-status Report
バルベラック道徳思想のスコットランド啓蒙における継承と展開の研究
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20K00097
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
門 亜樹子 京都大学, 経済学研究科, ジュニア・リサーチャー (20791916)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キケロ / 義務論 / トマス・リード / アダム・スミス / スコットランド啓蒙 / バルベラック / 哲学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)昨年度に引き続き、キケロの義務論のスコットランド啓蒙における展開についての研究を実施した。今年度は、アダム・スミスの『道徳感情論』第6版(1790年)と、スミスの後任としてグラーズゴウ大学道徳哲学教授に着任し、スミスの『道徳感情論』を「利己的な体系」と批判したトマス・リード(1710-96)の『人間の能動的力能論』(1788年)の第3篇第3章における「義務感」および良心概念の把握に努めた。リードが、人間の理性的行動原理としての「義務」への配慮(義務感)および道徳的善悪を判断する本源的能力としての「良心」と、「全体としての善への配慮」(利害感)の峻別の必要性を訴えたことを示した。また、スミスの『道徳感情論』の第6版第3部第4章にあるように、「想定された中立的な観察者」としての良心が利己的な情念に由来する「自己欺瞞」に陥ることにより弱められること、および、「適宜性の感覚」(第1部)と「値打ちと欠陥の感覚(感謝と憤慨)」(第2部)に基づく個々の実例を通じての是認または否認の積み重ねにより形成される「行動についての[良俗に関する]それらの一般的諸規則への顧慮」としてのスミスの「義務感」概念を示した。本研究成果は次年度以降公表される予定である。 (2)アダム・スミスの『道徳感情論』第6版第7部「道徳哲学の諸体系」を中心に、グラーズゴウ版の原文の精読および邦訳(水田訳、村井・北川訳、高訳、米林訳)の比較検討により、スミスによる古代から近代に至る哲学史の整理の把握に努め、リードによるスミスの『道徳感情論』評に着目し、論点整理を行った。 (3)昨年度に引き続き、バルベラック『娯楽論』第1編第3章の翻訳を進めた。 (4)研究課題に関連した著書の書評が公表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バルベラックの『娯楽論』訳文の修正作業には遅れが生じているが、本研究課題のもう一つの柱であるスコットランド啓蒙における道徳思想と敬神概念に関する研究の端緒を開くことができ、全体の進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の三年目であり、引き続き『娯楽論』の訳文修正作業を進めてゆく。さらに、スコットランド啓蒙の原典、およびスミスの哲学史に関する二次文献の精読と分析を進める。研究の遂行によって得られた知見を基に、論点の整理に努め、新たな研究方向の展開を模索したい。学会や研究会での発表・討論での質疑応答を参考にしながら、研究成果を論文の形で公表する予定である。
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Research Products
(1 results)