2020 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of argument forms about tolerance and intolerance : On the case of the Enlightenment philosopher Mendelssohn
Project/Area Number |
20K00101
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
後藤 正英 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (60447985)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | メンデルスゾーン / 寛容 / フォアスト / 啓蒙 / 宗教 / 魂の不死 / 国際研究交流 / ヴィシュワナータン |
Outline of Annual Research Achievements |
寛容をめぐる論争におけるメンデスゾーンの言説の特徴について、以下の二つの学会発表を通して明らかにした。9月の日本宗教学会の研究発表では、キリスト教の宗教理解に対する対抗言説として形成された点で、メンデルスゾーンを含む近代のユダヤ思想が、ヴィシュワナータンの指摘する「異議申し立てとしての宗教」の性格をもっている点を指摘した。12月には西日本哲学会のシンポジウムに登壇し、「啓蒙思想は魂の不死をめぐって何を問題としたのか」というテーマで研究発表を行った。この発表では、メンデルスゾーンがプラトンの『パイドン』を翻案する過程で、文化間の創造的邂逅がおこなわれたことを明らかにした。さらに、思想の違いの方が強調されることが多いカントとメンデルスゾーンの間に、魂の不死をめぐる実践的理解をめぐって問題関心の共通性が見出されることを指摘した。 この研究では、メンデルスゾーンの寛容論の現代的意義を検討するために、ドイツの政治哲学者フォアストの寛容論にも注目している。現在、フォアストの著作の共訳プロジェクトに参加している。その翻訳作業を通して、マジョリティが主張する普遍性が、依然として党派性に基づく不寛容を保持している事例についての理解を深めた。 今年度は対面の学会に参加することが不可能となったが、そのような状況下でも、アメリカ宗教学会(AAR)とユダヤ学協会(AJS)のオンライン大会に参加し、貴重な知見を獲得し、海外の研究者との新しいネットワークを作ることができた。その際に、ジェンダー思想の観点による近代ユダヤ思想の読み直しが積極的におこなわれている点について認識を新たにすることができた。ジェンダー思想に見られる、当事者による歴史的証言や主体のヴァルネラビリティといった問題は、寛容や共生の問題を考えるうえでも示唆的である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、申請時には予想していなかった新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により、当初参加を予定していた国際宗教学宗教史学会(IAHR)が開催中止となる事態に遭遇した。しかし、その代わりに、二つの国際学会(アメリカ宗教学会とユダヤ学協会)にオンラインで参加することが可能となり、研究を推進するための多くの知見を得ることができた。国内の複数の学会でも研究成果を発表した。論文としての発表は来年度の業績となるが、その基礎作業を行うことができた。 以上の理由から、研究計画は「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究内容としては、寛容や啓蒙に関する現代の研究成果を追跡しつつ、メンデルスゾーンの寛容論における言説の特徴を解明していきたい。 寛容論については、ドイツの政治哲学者フォアストの寛容論をめぐる論争状況を調査することを通して、啓蒙論については、ユダヤ啓蒙主義に関する歴史研究の大家であるファイナーの最新研究成果を吸収することで、研究を進捗させていく予定である。さらに、寛容論に新たな着眼点をもたらすものとして、近代ユダヤ思想のジェンダー思想的観点からの読み直しにも着手する予定であり、そのために関連文献の読解を勢力的に進めていきたい。またメンデルスゾーン研究については、彼の寛容・不寛容に関する言説の展開を整理するために、書簡の読み直しの作業を行う予定である。 研究成果の公開方法については、オンラインで参加可能な国内外の学会の開催状況を注視しつつ、研究成果を発表する場所を確保していきたい。また国内の研究者とのオンラインによる研究会の開催も検討中である。
|
Causes of Carryover |
他大学図書館からの書籍の貸し出しに関わる郵送費の請求時期が年度末になり、今年度の使用予定額から若干の超過が発生した。この郵送費に関しては大学内の他の財源から支払うことにしたため、結果として426円の超過が発生した。次年度の物品費の中で使用する。
|