2023 Fiscal Year Annual Research Report
Conceptions of Multicultural Toleration from Puritan Perspectives
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20K00108
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
森本 あんり 東京女子大学, その他部局等, 学長 (10317349)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩井 淳 静岡大学, 人文社会科学部, 名誉教授 (70201944)
竹澤 祐丈 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (60362571)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 寛容 / ピューリタニズム / イスラム / アメリカ / 世俗化 / 近代啓蒙 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度には、寛容と不寛容の原理的な考察と現代的な折衝例を研究した。 前者については、現代までの主要な寛容論を類型化することで、時代や文化を越えて適用可能な寛容論を構築する可能性を模索した。類型化には限界もあるが、寛容の定義にまつわる成立要件や内在的な矛盾にはある程度の共通性があるため、1「哲学者の回廊」型、2「原理分析」型、3「リベラリズムの問い直し」型、4「歴史的範例」型という四類型を抽出することが可能と判断された。このうち歴史的にもっとも多いのは第一の類型だが、これには近代啓蒙に特有の誤解が内包されている。現代の寛容論では、第二の類型が寛容論全般の基礎的な準拠枠を提供する点で評価され、第三の類型は特に西洋リベラリズムの欺瞞的な側面への批判として有効である。第四の類型は、寛容の構想としてはごく控えめではあるが、具体的な歴史に範を取るためもっとも現実的な提案と思われる。 後者については、20世紀の冷戦構造の発端を欧米のイランへの関与から読み直し、1979年のイスラム革命から9.11を経て21世紀のグローバルな宗教対立が激化する過程を辿った。イランのイスラム革命は、アメリカにとって「起きるはずのなかった」革命である。それを引き起こしたのは、結局のところ近代啓蒙の誤った世俗化論と、国内の福音派勢力の伸張を認知しようとしなかったアメリカの知的抵抗感である。イスラム神学の伝統に現世的な失敗を合理化する神義論の発達が見られなかったことも、現代イスラム思想の一部が過激化する歴史的な要因となった。イスラム社会では寛容が中世的な枠組みで受容されていることも留意されねばならない。 なお、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカの黒人女性とクイア女性が経験した寛容と不寛容の実態をマサチューセッツ州の大学史に残る資料で確認したことも、歴史的範例の検証としてたいへん有意義であった。
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