2020 Fiscal Year Research-status Report
Studies on Metaphysical Foundations Possessed by Naturalistic Worldviews
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20K00110
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
冲永 荘八 帝京大学, 文学部, 教授 (80269422)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生命 / 自然主義 / 精神 / 物質 / 遺伝 / 実在 / 量子 / 合理性 |
Outline of Annual Research Achievements |
「研究の目的」では、本研究課題の核心の「問い」に、合理的な世界の説明が前提とする、その合理的説明から外れた領域の性質を挙げた。特に生命現象については、アリストテレス的な目的因を取り除くダーウィニズムなどの自然主義について、その合理性の根拠がどこにあるのかを問うことが課題のひとつだった。そこからすると、客観と原因とを実在と見なす近代的世界観が、意識のような自発的現象さえも自然選択の産物として扱い、無目的な出来事の枠組みの中に落とし込むことが前提となっていることが予測された。つまり、意識や生命の自発性は客観的原因性から説明されたのではなく、そこと折り合わない部分を捨象されたと推測された。 2020年度の研究は、この客観性と原因性という前提について、まずその前提を存在論的、形而上学的な題材から始めた。具体的には現代の物理主義的な心の哲学における、汎心論的な主張の再評価に着目した。それは、客観と機械的な因果性という物質の性質からは、主観と目的という意識の性質が原理的に導かれ得ないために、むしろ物質を前者の性質に限定する前提の方を問うべきだとする。この主張の妥当性と問題点について、意識の存在についての古典的な議論に立ち返って再検討した。 ただし本研究課題は、合理的世界の前提を、こうした形而上学的な議論だけでなく、具体的な生命論の内に見出そうとするものである。2020年はコンピュータが意志を持ち得るか、人間の意識がコンピュータに入れるかという、一昨年から研究代表者が取り組んだテーマを一部継続した。そこでは、意味や主観性が存在するかという形而上学的な議論に決着をつけなくても、統語論的記号や、客観的な情報が一定のフレームの中で集積すると、それが主観的な意思の働きと区別がつかなくなるということは確認した。これは「研究実施計画」での、生命理解の自然主義的前提への研究に寄与するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度の研究は、生命理解の自然主義前提についての、形而上学的な研究が主力となり、当初の「研究実施計画」にあった、生物学の哲学における自然主義的前提などには大きく踏み込めなかった。しかし、研究の前提として、世界を理解する際の基本的概念の枠組みの性質については、現代汎心論の再検討によって、当初の計画より踏み込んで考察ができた。そこでは、クワインの言語哲学やローティ、ジェイムズのプラグマティズムの真理論の知見を用い、ある特定のデータは、複数の形而上学的な立場にもとり込み可能であることを論証した。 そこからすると、生物の生存のための特定の捕食行動や進化の理論も、無目的なダーウィニズム的な見地からも理解でき、また各々の生物が生き残ろうとする物質にはない特有の性質を具えているという立場からも包摂可能なことが理解できた。 しかし他方では、「研究実施計画」にある、ミリカンが提唱した生物の「固有機能」という考えを考察し、意味や目的を伴うように見える生物の行動が、本質的には無目的なダーウィニズム的な自然選択に結びつけられる仕方の具体には踏み込むことができず、また「固有機能」の背後に、生物の存在欲求の働きが前提とされている仕方についても確認が及ばなかった。これは目的的な生命活動が、自然主義的形而上学に取り込まれる仕方を考察する上では注目すべき題材なので、取り扱いが求められる。 さらに「研究実施計画」での、理論物理学者のシュレーディンガーが生命を「機械仕掛け」で説明しようとした一方、そこで生気論的な見地がどのように両立されたのかについても、前年度は考察する余裕がなかった。そこで、「機械仕掛け」の説明も生気論も生命のアスペクトの説明でしかない故に、説明の両立が可能であったという目論見から今後考察を進める。特にこれは、物理学的な理論さえ実在のアスペクトなのか否かを問う上で重要な課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題全体では20年度までに「①生命の自然主義的メカニズムと存在欲求」を終える予定だったが、研究課題である自然主義的世界観の前提の考察の中で、当初よりその世界観の限界点をより具体的に明らかにする必要が出てきた。そこで21年度は①の延長としてまずシュレーディンガーの生命観をより詳細に吟味し、生命体を発生、展開させた物理法則と、それによる生命や精神の説明の限界を明らかにする。ここで精神と物質は直接相互作用しないが、精神や意志が世界を包括する独特の存在論が立てられる。それに対して相互作用を認める立場としてベルクソンの進化論を対置させ、しかもその場合の精神が無意識も含めた非意識的領域、つまり物質的領域にわたる仕方に着目する。 その上で当初の「研究実績計画」にあった「②脳の働きから意識が発生する仕組みが問われないこと」へとつなげる。原子が基本的「存在」である限り物質は決定論的で感覚も主観もないと考える科学の基本的立場から、自発的、主観的な意識の発生の断絶をどう説明するかが改めて問題となる。この問題に関し当初の「研究実績計画」では、量子レベルの不確定性から「自由」や主観を説明する諸説に着目し、量子状態の「収縮」に意識発生を見るペンローズや、「収縮」以前から主観を普遍的に見出そうとしたスタップといった物理学者の議論を課題として挙げた。しかしシュレーディンガーの生命観に対面して、量子状態の位置づけが彼とは異なるハイゼンベルクやパウリの生命観、意識観をまずは対置させ、さらにそれらの議論を宇宙と合理性という問題圏からも検討し直す必要が出てきた。 その上で22年度「研究実績計画」の「③因果的必然性の宇宙が偶然に立脚しなければならない構造」に進むが、そこでも哲学者の議論の前に、シュレーディンガーの物理的宇宙と精神の構造に立ち返り、さらにそれを合理的宇宙という問題意識から再検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
2020年度は8月に、ニュージーランドのダニーデンで開催予定だった国際学会International Association for History of Religion(IAHR)が、新型コロナウィルスの世界的流行によって中止となり、そのために出費予定だった旅費などがすべて支出できなかった。 この学会では"Critical Examination into the Trial of Consciousness Uploading in Transhumanism "というタイトルで、コンピュータの統語論的なシステムに、意識の持つ欲求や意味までもアップロード可能か否かという、本研究課題での生命と物質との関係についての考察に深く関わる問題を扱う予定だった。 またこの発表にむけて、同じパネルを構成するメンバーと準備のための研究会を開く予定だったが、それも2020年4月時点で国際学会の中止が決まったため中止となり、交通費や資料の購入費などが支出できなかった。国際学会の発表内容は、個人で研究を進めることになった。 この国際学会だけではなく、2020年度は国内学会もおしなべてオンライン大会となり、それらのための交通費などが支出できなかった。2021年度以降もこの傾向が続くのであれば、交通費などの支出は今後も相当に少なくなると思われる。オンラインや個人での研究を充実させなくてはならない。
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Research Products
(8 results)