2021 Fiscal Year Research-status Report
From bee to livestock: social animals in the history of western thought
Project/Area Number |
20K00114
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
橋本 一径 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (70581552)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 西洋思想史 / 生物学史 / 蜜蜂 / 無知学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は西洋における「社会」の表象の変遷を、蜜蜂と人間を比較する西洋における伝統的な比喩に焦点を合わせつつ、思想史的にたどり直すものである。3年間の研究期間の2年目にあたる2021年度は、西洋における社会表象としての動物の役割の変遷を、思想史的にたどり直した研究成果を、「私たちはミツバチであるのか? 社会のイメージと身体」と題した口頭発表、ならびに「社会的動物/家畜的人間 ミツバチの利他性をめぐって」と題した論文として公表することができた。これによりコロナ禍の影響によって遅れていた研究計画を補うことができた。また、本年度は10月よりフランス・ナント高等研究所にフェローとして滞在し、やはりコロナ禍の影響を受けて遅れていた現地での文献調査を進めることができた。とりわけビュフォンを始めとする18世紀後半の博物学における蜜蜂をめぐる議論を検証し、そこにおいて蜜蜂の巣の構造を人間社会にたとえる議論は消滅していることが確認できた。古代から人間社会の理想として描かれてきた蜜蜂の比喩は、18世紀以降に動物と人間を明確に区別する議論の登場とともに下火になっていくというのが、本研究の仮説であったが、上述の現地調査の結果は、この仮説を裏付けるものであった。この成果を取り入れたフランス語の口頭発表を、ナント高等研究所のセミナーにて実施した。同研究所にフェローとして滞在する様々な分野の研究者たちとの議論を通して、蜜蜂をめぐる議論が、「無知学」と呼ばれる新しい学問分野とも無縁ではないことを学び、今後の展開への活路を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度に予定していた、西洋における社会表象としての動物の役割の変遷を思想史的にたどり直す研究は、コロナ禍の影響を受けて遅れていたが、2021年度はこの点に関する口頭発表および論文を公表することができ、初年度の遅れを取り戻すことができた。加えて、当初より2021年度の研究計画としていた、博物学や生物学における蜜蜂をめぐる議論についての文献調査は、本年度の10月よりフランスのナント高等研究所のフェローとして渡仏し、フランス国立図書館などで実施することができた。この調査で得られた知見を取り入れたフランス語の口頭発表を、ナント高等研究所におけるセミナーにて行うことができたのは、当初の予定を上回る成果であった。なお、このナント高等研究所は、人文社会系を中心に、理数系の研究者も含めて、世界中から応募した研究者が、選考を経てフェローとして約1年間の滞在を行う研究所であり、そこでは研究成果の発表の義務があることに加えて、フェロー同士の領域横断的な交流を活性化することが強く推奨されている。生物学者を含む本年度のフェローたちとの議論を通して、蜜蜂をめぐる議論が、「無知学」と呼ばれる新たな学問分野とも無縁ではないことを学んだ。この学びは本研究の今後の展開にとっての大きな示唆となり、本研究が最終的に想定以上の成果を上げるための足掛かりとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度となる2022年度はまず、ナント高等研究所にて行ったフランス語での口頭発表を、適切な媒体にフランス語もしくは英語で論文として発表する予定である。また、2022年9月上旬までを予定している在外研究期間を利用して、引き続きフランスでの文献調査を進める。さらには、2021年度にナント高等研究所でのフェローとしての滞在によって得た、「無知学」という新たな知見を付け加えながら、本研究を締めくくる論文を執筆し、共著書として刊行することを予定している。この「無知学」という問題設定は、現代における科学的言説の信頼性や陰謀論などのテーマと呼応しており、研究分担者として参加している「近代におけるフィクションの社会的機能についての領域横断的研究」とも関連の深いものである。同研究との共同開催の形で、国際シンポジウムの開催を計画している。さらには、本研究の内容と関連の深い一般向け書籍の出版企画が進行中であり、2022年度中に執筆を終えることを目指している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響を受けて2020年度に生じた次年度使用額が引き続き発生している。これは当初予定していたフランスでの現地調査が実施できなかったことに起因するものだが、2021年度よりこの調査は実施ができるようになっており、2022年度までに予定通り使用できる見込みである。
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Research Products
(3 results)