2020 Fiscal Year Research-status Report
現代ロシアにおけるソビエト・ポップカルチャーの再解釈・文脈改変の事例研究
Project/Area Number |
20K00121
|
Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
長谷川 章 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (60250867)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ソビエト・ロック / ロシア映画史 / 現代ロシア・ポップカルチャー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代ロシアでのソビエト期の芸術・文化表象がどのように従来の解釈を改変され、新たな創作活動や政治運動に利用されているかという問いかけから出発し、ソビエト期に夭折したロック・シンガー、ヴィクトル・ツォイ(1962- 1990)を中心に取り上げ、現代ロシアでの政治と芸術の関係性について明らかにすることを目的としている。 研究の遂行のためにはロシアでの広範な文献調査が必須であるが、本年度はCOVID-19の感染拡大により移動が制限され、調査を行うことができなかった。そのため、ネットを通して購入・入手が可能な関連文献、ネット記載の論文を収集することに切り替えた。 1年目の計画としては実施計画書では、ツォイのディスコグラフィー、ツォイの出演した映画作品(ソロヴィヨフ『アッサ』(1987)、ヌグマノフ『僕の無事を祈ってくれ』(1988))、V.カルギン『ヴィクトル・ツォイ』(2016)などについて検証するとしていたが、これに関しては、おおむね当初の計画通り遂行することができた。また、上記だけではなく、ツォイの記憶がポスト・ソビエト期に引き継がれていく際に、自作でツォイについて言及するなどして継承に関与した俳優・監督のセルゲイ・ボドロフJr.の考察を進めることもできた。 以上の成果をまとめ、単著論文「現代ロシアにおけるヴィクトル・ツォイのイメージについて」(『秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学』76号、63-67頁、2021年3月1日刊行)を刊行した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
OVID-19の感染拡大により、ロシアや日本の他地域の図書館での調査・収集が不可能になったのは、大きな障害であった。しかし、実施計画書1年目にあるような研究を入手可能な文献の範囲内で遂行し、論文の公刊もできたため、1年目としてはおおむね順調に推移していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
最大の懸念は2年目、3年目にロシアでの文献調査が行えるかである。調査可能になればただちに図書館での調査を行うが、それが不可能な場合は、1年目と同様にネットなどを通した文献収集に切り替える(本研究に関してはデジタル化されない資料が多く、現地調査の完全な代替となるものではないが)。また、多少の文献不足は本科研費研究期間終了後の現地調査で補うことも前提に、残り2年で研究調査の枠組みを確立しながら、調査・論考を進めていきたい。 それを踏まえた上で、2年目の今年度は、現代のツォイをモチーフとした作品の検証に当てる。ツォイの伝記的映画『夏』(K.セレブレンニコフ監督) (2018)、ツォ イの歌がナショナリズムの政治的文脈から使われた『ロシアン・スナイパー』(S.モクリツキー監督)(2015)、さらには、ツォイの肖像が象徴的に使われるミューシシャン、リャピス・トルベツコイによる親ウクライナ・マイダン派的「光の戦士」のプロモーション・ビデオ(2014) を 中心に、作品分析を行う。その際には、ツォイの厳密な伝記的事実と比較対照して検証を行う。その上で、中間報告となる論文を公刊する。 3年目はそれまでの成果を踏まえて、総合的な見地からツォイの事例研究をまとめる。その際には、ツォイの事例が、現代のソビエ ト期文化解釈の改変の中でどのように位置付けられるか、また、それが特に現代の青年層に与えている影響について分析を行う。そのことで現代の青年層文化が将来、どのような方向性をとることになるか、予測される可能性についても考察し、最終的研究成果を論文にして公刊する。
|
Causes of Carryover |
1年目がCOVID-19感染拡大によりロシア、および国内での調査が不可能になり、旅費として使用できなかったため。 余った額は次年度(今年度)の旅費、および図書費へ回すことを予定している。
|