2022 Fiscal Year Annual Research Report
現代ロシアにおけるソビエト・ポップカルチャーの再解釈・文脈改変の事例研究
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20K00121
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
長谷川 章 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (60250867)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア音楽 / ロシア映画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究1年目の2020年度は、ソ連末期のロックシンガー、ツォイの記憶がソ連崩壊後に受け継がれていく様子を検証し、単著論文「現代ロシアにおけるツォイのイメージについて」(『秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学』第76集所収)でその結果をまとめることができた。また、21年度には現代の映画監督がツォイを登場させる作品で彼の記憶をどのようにフィクション化したかを検討した論文を公刊した(「映画における「懐疑論者」の役割 」(『秋田大学教育文化学部研究紀要 人文科学・社会科学』第77集所収)。 両年度はCOVID-19のため、国外だけではなく、居住県外への文献調査も困難であった。しかし、インターネット等を通じ資料・文献を可能な限り収集し、基本的なものについてはカバーすることができた。だが、2022年のロシア軍によるウクライナ侵攻とロシア本国の急速な独裁化は、この研究自体に深甚な影響を与えた。それは、ロシアでの現地調査が当面不可能になったことを意味するだけではない。この研究の射程に入っていた歴史的背景は、ソ連崩壊へと向かう1980年代、新生ロシアの誕生とその変質までだったが、現在ロシアが破滅的展開に向かっている事態は、研究の着地点をどのようにすべきかを根本的に再考させるものとなったのである。 このため22年度は、現在の映画・アニメ・音楽界などの急転を追うことにまず専念せざるを得なかった。その成果をまとめた単著「弾圧の危険冒して「反戦」 映画人に消えない良心の火」は『週刊エコノミスト』2022年6月28日号で公表した。だが、こうした激変は、それまでのツォイ研究の成果を損なうものでは全くなく、むしろ、この40年の記憶の再解釈をめぐる本研究の意義が高まったと考えられる。本研究の総括となる論文は2023年度中に公刊できる予定であり、それを新たに承認された科研費研究へつなげていきたい。
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