2022 Fiscal Year Annual Research Report
デジタルゲームにおける没入(イマージョン)概念の美学的考察
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20K00123
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 寛 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (40431879)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 遊び / ゲーム / 没入 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、遊び、メディア、プレイヤーのアイデンティティという三つの観点からデジタルゲームの没入の独自性を解明するものである。 最終年度である令和4年度は、過去二年間の成果であるメディアとプレイヤーのアイデンティティに関する知見を、デジタル時代に対応する遊びの美学理論の中に再統合し、他の芸術ジャンルやメディアにおける没入との共通点と相違点をも明らかにしたうえで、デジタルゲームにおける没入の理論を構築した。 これまでメディア研究者ならびにゲーム研究者は、映画やVRの鑑賞経験において生じるものと同種の没入がゲームプレイにおいても生じるという立場(ブラウンとケアンズ、エルミとマユラ)と、デジタルゲームのプレイにおいては没入は生じていないという立場(サレンとジマーマン、ユール)に分裂してきた。 本研究課題は、デジタルゲームの文化的・メディア的特性に着目することで、これら二つの対立する立場を調停することを目指すものであった。そしてそれは、デジタルゲームを「インタラクティブなフィクション」という物語理論上、独特な地位をもつものとして規定することで可能となった。その独特な地位とは、具体的には、(1)それが現実世界から隔離された「遊び」という営みである点、(2)それが常にコントローラーやスクリーンといったインタフェースに媒介される点、そして(3)それが現実世界内のプレイヤーと虚構世界内のキャラクター(アバター)が分離しつつ重なっている独特な虚構世界経験を与える点、以上の三点から説明される。 そして、他のメディアとは異なるデジタルゲームに特有の没入のあり方を明らかにした本研究課題は、裏返しにいえば、没入という現象を通してデジタルゲームの本質を再発見・再検証することに成功したことになる。それによって美学・感性学のみならずデジタルゲーム研究への寄与も果たしたことになる。
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Research Products
(9 results)