2023 Fiscal Year Research-status Report
南アジアのポリフォニー民謡に関する音楽民族学研究:インド・マニプル州ナガを中心に
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20K00130
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
岡田 恵美 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 准教授 (60584216)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ナガ / インド北東部 / ポリフォニー / 歌唱文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象地であるインド北東部マニプル州では、令和5年4月より同州の多数派民族であるマニプリと、州政府によって指定トライブ(Scheduled Tribe 以下、ST)と認定されているクキとの間で、STの優遇政策(大学への入学枠といった教育面、公的機関への雇用枠、議会議席枠など)をめぐる民族間紛争が勃発し、武力衝突によって同州への入域が困難となった。令和5年度内には政情不安定で事態の沈静化に至らなかったため、同地域での調査が叶わなかった。 そこで隣接するインド北東部ナガランド州に居住するナガ社会を中心とした研究を推進した。特に、同州南部のモンゴロイド系山岳民族チャケサン・ナガのポリフォニックな伝統歌唱文化に関しては、前年度に現地研究者ヴェサト・テルオ氏(インド・ナガランド芸術大学)と共同で実施したペク県の農村部での現地調査資料(歌唱場面や村人へのインタビューを撮影した映像資料等)の分析を進めた。 こうしたナガの民謡におけるポリフォニックな音楽構造や歌詞のレパートリー、ナガの農村社会で伝承されている歌の機能と彼らの協働性や環境との相関性に関する論考について、今後刊行予定の学術図書に分担執筆したほか(令和6年度刊行予定)、「第134回 国立民族学博物館友の会 東京講演会」において、「人はなぜ共に歌うのか?―インド山岳民族ナガの伝統ポリフォニーと共生社会」と題して、研究者や一般を対象とした講演も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述の通り、本研究ではインド北東部マニプル州北部に暮らすナガの歌唱文化を主な対象としていたが、2023年4月より同州の多数派民族であるマニプリと、指定トライブのクキとの間で、STの優遇政策をめぐる民族間紛争が勃発し、年度内は政情不安定で事態の沈静化に至らなかったため、同地域での調査が叶わなかった。 だが、その分、隣接のナガランド州南部のナガに関する調査を推進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はマニプル州の社会動向を注視しながら、令和6年度に入域が可能となれば、同州北部に暮らすナガの民謡の音楽的構造や社会文化的脈絡を調査・分析し、ナガ社会における歌の機能と協働性について解明することを目的とした現地調査を実施する。ナガが多数派を占めるナガランド州では州政府主導の音楽振興政策や伝統文化の観光資源化が進み、近年は民謡に対する再評価や、音楽を媒介にローカリティが再生産される様相が顕著である。その一方のマニプル州ではそうした文化政策は実施されておらず、両州の比較を視野に入れながら、マニプル州のナガにおける民謡の伝承状況や歌唱文化に対する世代間の意識を明らかにしたい。 令和6年度中にマニプル州への入域が難しい場合には、ナガランド州南部のナガの歌唱文化の調査を更に進め、研究成果の発信に注力する。
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Causes of Carryover |
前述の通り、令和5年度は調査予定地において民族間紛争が勃発し、入域および調査が叶わなかったため、その分の調査旅費を次年度に繰越した。令和6年度は現地の動向を注視しつつ、最終年度として、入域が可能であれば予定地で調査を行い、入域が不可能であれば、隣接のナガランド州南部での追加調査旅費に充当する。
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